となりの専務さん
家に帰ると、もやしと缶詰でなるべくお腹の膨れる料理を作る。
もともと、借金ができる前からうちは裕福ってわけではなかったし、石川家の料理は基本的に私が作ってたから、私は貧乏料理が大の得意だ。


夕飯を食べた後、私はお姉ちゃんに電話をして、いらない服を送ってもらおうかとな思った。

でも、そんなこと言ったら、なにか勘づかれて心配させてしまうかもと思って、やめた。



ふと時計を見ると、二十時を回った頃だった。
その時、となりの部屋の玄関が開く音が聞こえた。

専務、今日は早めに帰れたんだ。
そういえば、今日の給湯室での一件、専務にも聞かれてた……。



となりの部屋の電気がついたのが、壁の穴のカーテン越しにわかる。


すると。


「石川さん、いる?」

壁の向こうから、専務にそう尋ねられた。



「は、はい、います」

「渡したいものがあるんだ。玄関まで回るのめんどくさいから、カーテン外してくれない?」

専務にそう言われ、私は「は、はい」と答え、慌ててカーテンを留めている画びょうをすべて外した。

カーテンがはらりと外れると、専務の姿が目の前にあった。


そして。


「はい」

専務はそう言って、右手に持っていた白い箱を私に差し出した。


「え、なんですかこれ?」

「ケーキだよ」

「え!?」

ちょうどケーキ食べたいと思ってたー……じゃなくて!


「ど、どうして……」

「ストレス感じて甘いものでも食べたいだろうと思って」

「……」

「ついでに言うと、ほんとは甘いもの食べたいのにお金ないからって買いものを諦めそうだなと思ったから」

「……」

……なにもかも見透かされてて、ちょっと怖いくらいです……。


……でも、うれしい。
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