となりの専務さん
だけど。


「そ、そんな、いただけません。
きょ、今日先輩方に言われたことはすべて事実だと思ってますし、それでなくても会社の上司の方に……しかも専務に、私なんかがこんな風に気を遣っていただくわけには……」

話している途中で、私のお腹が盛大にグーと音を出した。

夕飯を食べた後だというのに……。そんなにこのケーキが食べたいのか、私のお腹は。


恥ずかしくて、両手をお腹にあてながら私はゆっくりと俯いた。



……すると専務は。


「なにかいい匂いがする」

専務が急に、なにかの匂いを嗅ぎ始めた。


「え? 私の部屋からですか?
たぶんさっき作った夕飯の匂いです」

匂いなんてとっくに消えてると思うけど……専務、鼻がいいんですね。


「なに作ったの?」

「…….もやし炒めです」

「なにそれ。食べてみたい」

「え⁉︎」

「あ、そうだ。このケーキあげるから、君の料理食べさせてよ。あ、余ってればだけど」

「あ、余ってはいますが……」

「じゃ、決まり。おじゃまします」

「あっ、あのっ……」

止める間もなく、専務は壁の穴から私の部屋に自然に入ってきた。



「ケーキ、どうすればいい?」

「え、えと、じゃ、じゃあその、いただきます……すみません本当に。あ、テーブル用意します」

私は部屋の隅に寄せていた木製の丸テーブルを引っ張り、部屋の真ん中へと持ってくる。ご飯を食べたりする時はいつもこのテーブルを使うけど、逆にご飯の時間じゃない時は、基本的にはテーブルは部屋の隅に置いてる。
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