となりの専務さん
婚約者の事情
その日の夜。


「お姉ちゃんありがとうー!」

私は、長野のお姉ちゃんに電話をしていた。



『そんなに喜んでもらえるほどのものじゃないけど』

落ち着いた声でお姉ちゃんはそう言うけど。


「ううん! この服もこの服も、すごくかわいい!」

仕事が終わり、家に帰ると時間指定の宅配便が届いた。

送り主はお姉ちゃんで、お姉ちゃんのお古の洋服などを送ってくれたのだった。


お姉ちゃんのお古なので確かに高級な洋服ではないけど、私が持ってる洋服よりずっとずっとかわいいものばかりだった。
着回し次第ではオシャレに着れそう。明日から仕事で着ていくのにすごく助かる。


……うれしすぎて、私はポロっといらないことを言ってしまった。



「これでもうダサいって言われなくて済むよー」

『え?』

「あ」

時、すでに遅し。


『なに、あんた会社でダサいってバカにされてるの?』

お姉ちゃんは心配そうな声でそう聞く。


「いやっ、そんなことは……」

『服がダサいって言われたってこと?』

「あの、その、でももう大丈夫だから!」

専務にかわいくしていただいたから……とは言えないものの、私はお姉ちゃんに必死に「大丈夫だから」を繰り返した。



『……本当に大丈夫なの?』

お姉ちゃんはやっぱり心配そうな声で、私にそう質問する。
そして。


『……広香さ、私とお父さんが長野に行く直前、自分の今までの貯金のほとんどを家のために置いてってくれたけど、もっと自分のためにお金使っていいんだよ?
家だって、そりゃ借金はあるけど、だからってべつに今すぐどうこうなるほどヤバい状況ってわけじゃないんだから』


お姉ちゃんの優しい言葉が、私の心に温かく染み渡る。……うれしい。本当に。

うん。あまり我慢しすぎるとお姉ちゃんにもお父さんにも、そして専務にも……また心配をかけてしまう。
もちろん無駄遣いはできないけど、たまにはもう少し自分のためにお金を使ってみようかな……普段より少し高級なお茶っ葉を買ってみるとか……。
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