エリート上司と秘密の恋人契約
本当に別れるの?

嫌だ。


床に和真が持っていたビジネスカバンが置かれるのが見えたと同時に私は和真の胸の中に引き寄せられる。

ああ……和真の香りだ。

安心できる香りの中にずっといたい。

でも、何でここで抱き締めるの?

別れるんだよね?


「美弥、好きだよ」


「えっ?」


この場でそんなことをどうして告げるの?

驚いて顔をあげると優しく微笑む和真と目が合う。

どうしてそんな顔を見せるの?


「じゃ、元気で」


再びカバンを持つと私に背中を向けた。

「待って! 行かないで!」と引き止めたい気持ちが衝動的に溢れるけど、出来ない。

小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、ただ涙を流した。

和真には決して見せなかった涙。

一瞬でも振り返らないかなと期待をしたけど、和真は1度も振り返らないで、姿を消した。


見えなくなってから呟く。


「和真のバカ……。好きだよ……」
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