エリート上司と秘密の恋人契約
「お腹すいてる?なにか食べて帰ろうか?」


「あ、家で食べるので」


「そうか」


あっさりと会話終了。

また静かになる。

なにか違う話題を……


「あの、諸橋さんは」


「和真と呼んで」


「あ、和真さん」



名前で呼んだのにじろりと睨まれる。「さんはいらない。ついでに敬語もいらない」と言われて、私は貝のように口を閉ざしてしまった。

自分が聞こうとしていたことも忘れた。

いきなり年上でしかも直属ではないにしても、上司にあたる人を敬語もなしになんて話せない。

こういう場合は、喋らないに限る。

家に到着するまで静かにしていよう。あと20分くらいだ。


「美弥」


「はい?」


「俺は美弥を困らせるつもりはないんだよ。付き合うなら楽しく付き合いたい…ただそれだけ」


そうか。私も楽しく付き合うほうがいい。

たったの1ヶ月しかないんだから、楽しんだほうがいいのは分かる。

だけど、難しい。

戸惑うばかりで楽しみ方が分からない。

困った、困った。
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