エリート上司と秘密の恋人契約
初めて向かい合う人だが、不躾に頭のてっぺんから足のつま先までまじまじと見てしまう。

足を組んで座る姿はどこかのモデルのようで、雑誌の1ページに使われてもおかしくないくらいだ。

そんな人に交際を申し込まれるとは……何かのドッキリだろうか？

プラカードを持った人がどこからか現れてくるのではないかと店の奥を見てしまう。だけど、そんな気配は感じられない。

そんなことを考えているうちにコーヒーが運ばれてきて、諸橋副課長はフーッと息を吹きかけてから飲んで、口を開いた。


「実は、まだあまり知っている人はいないのだけど、いや、いるかな……」


ん？ どっちなんだ？

曖昧な言い方に首を傾げる。


「まあ、そこはどうでもいいのだけど、１ヶ月後にニューヨークに赴任することが決まっていて……あ、赴任といっても、研修が主で、1年後には戻ってくるけどね」


「はあ……」


諸橋副課長とまともに話したのは、今日が初めてだけど、何だか意外に歯切れが悪い話し方で。出来る人だという噂は嘘なのではないかと疑ってしまう。スムーズに進まない話に少々苛立ちそうになる。
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