好き以上
「むしろ、振ったにもかからず、以前よりもわたしに対しての態度が軟化した方が問題だと思うんだ」
「ほう。具体的には?」
「まずは、」
人差し指を立てて、思いつく言葉を口に出そうとした瞬間、それは遮られた。
大きくドアの開く音がしたからだ。部室にいた三人の視線が一気にドアに集まる。
そこにいたのは、言うまでもなく──
「やっと、見つけた」
噂をすれば、なんとやらというやつだった。
螢ちゃんの顔を見るなり、ほっと安堵の表情を浮かべる古川先輩は、いつも見せる余裕さを少しだけかいているようにさえ見えた。
そして流れるような動作で、螢ちゃんの背後までやってくると、そっと両手を伸ばして螢ちゃんの身体をその手で包み込む。ぎゅうと、効果音が聞こえそうなほどに、強く。
それは、どこぞのドラマのワンシーンのような自然なものだった。
私も、真冬くんも、螢ちゃんもぽかんとしたまま、螢ちゃんの肩に顔を埋める古川先輩のつむじを凝視。
そして、数秒後、正気を取り戻したらしい螢ちゃんが、さながらひっつきむしのように抱きしめるその腕をぺしぺし叩いて、渋い顔をする。
「離してください。ここは生徒会室じゃなんですよ。ところ構わず人を抱きしめるの、いい加減やめてください。人の目を気にしてもらえませんかね」
「嫌だよ。止めちゃったら、螢ちゃん逃げるから」
「私が逃げるのは、古川先輩がべたべたするからです。うざいです」