好き以上
……えっと。
私は、文芸部の部室にあるまじき甘ったるい雰囲気に気まずさを感じながら、目の前に座っている真冬くんを見る。
恋愛という恋愛から避け続け、干からびた干物メスゴリラには強すぎる糖分はもはや有害なのである。たぶん、助けを求める子犬のような瞳になっていたに違いない。
……えっと、これ、本当に付き合ってないの?
視線のみで訴えかける。
その視線の意味に気づいた真冬くんは、さすが私の後輩だ。
知りませんよ、とわんばかりの白けた顔で舌打ちをされたけれども。
が、さすが真冬くん。今まで沈黙を守り続けていたが、ようやく口を開いた。そして、私なら絶対に言えないだろうセリフを軽々と言ってのける。
「いちゃつくなら、よそでやってください。死ぬほど迷惑です」
「羨ましいからって、俺に当たらないで欲しいな」
「……」
真冬くん撃沈。
嫌がる螢ちゃんに頬を寄せてにっこりほほ笑む古川先輩と対照的に、真冬くんの顔が怒りの沸点を越えて、もはや無表情だった。それはそれで怖かった。
いつもの居心地のいい部室はもう、そこにはなく、殺伐とした雰囲気が周りを包む。真冬くんと古川先輩の間には、ばちばちと熾烈な電撃の槍が見えるほど、冷たく、私なんかが安易に仲介したら普通に丸焦げになりそうで、黙っているしかない。