好き以上
✿✿✿
螢ちゃんが何をしたのか、それを知ることになったのは、次の日のことだった。
授業が終わり、いつものように文芸部へ向かおうと教科書を入れた鞄を肩にかけ、教室を出ようとしたその時。
「小町ちゃん」
聞きなれた、落ち着きを払った声とともに、後ろから肩を叩かれた。
私のことをみんなこまっちゃんと呼ぶけれど、一人だけ小町ちゃんと呼ぶ子がいる。それは言うまでもなく、螢ちゃんだ。
──そう、この時、確かに私は、嫌な予感がしたんだ。
だって、螢ちゃんは生徒会の仕事で大抵授業が終わったら生徒会室に直行するから、そもそも私に声を掛ける必要なんてない。
だから、この時点で気付くべきだったんだ。
「どうし、た……」
振り向きながら、の、と最後まで言おうとした言葉は飲み込まれた。
なぜなら、後ろにいたのは螢ちゃんだけではなかったからだ。
螢ちゃんの後ろには、クラスの女子の方々がご丁寧に顔を揃えていた。そしてその顔が恐ろしいくらい笑顔。スマイル。いまだかつて同性の女の子たちにこんなに笑顔の大安売りをされたことはない。
はっきり言って、恐怖だった。
考えても見てほしい、放課後、自分の背後からものすごい笑顔の友人たちが、じわじわと自分との間合いを詰めよってくる風景を。ホラーだよ、これ。