ネクタイと指輪【SS】
「先輩」
「何」
「そんなに俺が怖いですか」
「怖いわけないでしょう、なんで私が」
「だって、震えてる」
タイプを続けようとする私の右手に重ねられた、手。
「離して」
振り払おうとしても、逆に抑え込まれる。
「ふざけてないで仕事しなさい」
握られたままの右手をぐいとパソコンから離され、回転椅子は勢いで簡単にそいつへと向くかたちになった。
黙って顔を背ける。
「俺の事見てるの、気付いてましたよ。そのくせ必要以上に目を合わせようとしない」
「馬鹿言わないで」
ぐ、と、握る手に力がこもった。