お帰り、僕のフェアリー
昔は、それでもよかったんだ。
伯父が僕に期待してくれることをうれしく思っていた。
共に育った従妹と婚約して、フランスで一生を終えるつもりだった。
でも、従妹には僕の想いは重荷でしかなかった。
少しずつ壊れていく従妹を慮ると、伯父も僕もあきらめざるを得なかった。
伯父は僕を、僕は従妹を。
「7時だよ~。タクシー来たよ~。行くよ~!」
由未が、書斎のドアをノックしながら、そう呼びに来た。
「じゃ、続きは来週。宿題は出さないから、自分のお稽古をがんばって。」
そう言ったが、静稀は『エルザの瞳』を放さず、さっきと同じように両手で胸に抱いていた。
……持って帰りたいのか。
黙ってるけど、おねだりモードの静稀の瞳が可愛くて可愛くて。
僕は、つい片手で静稀を抱き寄せてしまった。
「参ったな。もう今日は触れないつもりだったのに。そんな可愛い顔、犯則だよ。」
天を仰いでそう嘆く。
静稀は黙ったまま、僕の肩に頭を押し付けるようにもたれかかってきた。
……据え膳喰わねば?
いやいやいや。
僕は、小さく頭を振り、自分の邪な心を押さえ込む。
扉の向こうで由未が待っている。
「さ、行こう。」
本を抱えた静稀の肩を抱いたまま、静稀を半回転させて、一緒に歩き出す。
恥ずかしそうに僕を見上げた静稀に、また、僕の理性がふっとぶ。
無意識に、静稀の額に口づけたその時、由未がドアを開いた。
由未は、僕と静稀を見て一瞬驚いたようだが、すぐににやりと笑った。
「このまま付き合っちゃえば?お似合いやと思うよ。」
由未の言葉に、僕と静稀は顔を見合わせた。
お互いに嫌がってないことはよくわかるが。
何も言い出せない僕らに痺れを切らした由未に促され、とりあえずタクシーに乗り込んで出発。
気を回した由未が助手席に座ったため、僕と静稀が後部座席に座る。
車内で、なぜか僕らはずっと手をつないでいた。
それが自然なことのように。
由未が選んだ店は、山手の落ちついた料亭だった。
和装の仲居さんに案内された座敷には、お膳が3つ配置されていた。
「ここは兄のよく来るお店なんですって。今日は一品一品持ってきてもらうけど、最初に全て出してもらうこともできるから。ね!セルジュ!」
由未の言葉は、前半は静稀に、後半は僕に向けられていた。
義人の贔屓の店ということは、つまり、そういうことか?
おそらく2人で予約すると、襖の向こうの奥の部屋に蒲団が敷かれるんだろう。
僕は苦笑いするしかなかったが、静稀は何も気づいてないようだった。
しかし、さすが、というか。
お料理もサービスも特上だ。
由未も静稀も、一品一品、携帯電話で撮影したり、はしゃいでいる。
ゆっくり時間をかけて、美味い料理を堪能した。
伯父が僕に期待してくれることをうれしく思っていた。
共に育った従妹と婚約して、フランスで一生を終えるつもりだった。
でも、従妹には僕の想いは重荷でしかなかった。
少しずつ壊れていく従妹を慮ると、伯父も僕もあきらめざるを得なかった。
伯父は僕を、僕は従妹を。
「7時だよ~。タクシー来たよ~。行くよ~!」
由未が、書斎のドアをノックしながら、そう呼びに来た。
「じゃ、続きは来週。宿題は出さないから、自分のお稽古をがんばって。」
そう言ったが、静稀は『エルザの瞳』を放さず、さっきと同じように両手で胸に抱いていた。
……持って帰りたいのか。
黙ってるけど、おねだりモードの静稀の瞳が可愛くて可愛くて。
僕は、つい片手で静稀を抱き寄せてしまった。
「参ったな。もう今日は触れないつもりだったのに。そんな可愛い顔、犯則だよ。」
天を仰いでそう嘆く。
静稀は黙ったまま、僕の肩に頭を押し付けるようにもたれかかってきた。
……据え膳喰わねば?
いやいやいや。
僕は、小さく頭を振り、自分の邪な心を押さえ込む。
扉の向こうで由未が待っている。
「さ、行こう。」
本を抱えた静稀の肩を抱いたまま、静稀を半回転させて、一緒に歩き出す。
恥ずかしそうに僕を見上げた静稀に、また、僕の理性がふっとぶ。
無意識に、静稀の額に口づけたその時、由未がドアを開いた。
由未は、僕と静稀を見て一瞬驚いたようだが、すぐににやりと笑った。
「このまま付き合っちゃえば?お似合いやと思うよ。」
由未の言葉に、僕と静稀は顔を見合わせた。
お互いに嫌がってないことはよくわかるが。
何も言い出せない僕らに痺れを切らした由未に促され、とりあえずタクシーに乗り込んで出発。
気を回した由未が助手席に座ったため、僕と静稀が後部座席に座る。
車内で、なぜか僕らはずっと手をつないでいた。
それが自然なことのように。
由未が選んだ店は、山手の落ちついた料亭だった。
和装の仲居さんに案内された座敷には、お膳が3つ配置されていた。
「ここは兄のよく来るお店なんですって。今日は一品一品持ってきてもらうけど、最初に全て出してもらうこともできるから。ね!セルジュ!」
由未の言葉は、前半は静稀に、後半は僕に向けられていた。
義人の贔屓の店ということは、つまり、そういうことか?
おそらく2人で予約すると、襖の向こうの奥の部屋に蒲団が敷かれるんだろう。
僕は苦笑いするしかなかったが、静稀は何も気づいてないようだった。
しかし、さすが、というか。
お料理もサービスも特上だ。
由未も静稀も、一品一品、携帯電話で撮影したり、はしゃいでいる。
ゆっくり時間をかけて、美味い料理を堪能した。