お帰り、僕のフェアリー
パリでは、おじいさまとおばあさまの住まう屋敷を訪ねた。
13年の歳月は、彼らをすっかり小さな老人に変えてしまったが、僕には以前にも増して愛しく大切に感じられた。
これまでの不義理を詫び、これからはもっと訪問することを約束した。
夜、おじいさまに呼ばれて、僕は一対の指輪を渡された。
chevalieres(シュヴァリエ-ル)……貴族の家に代々伝わる紋章をかたどった金の指輪だ。
「いや、僕は、日本人だし、姓も松本だし、受け取る資格ないから……。」
もらったからにはずっと嵌めてなければいけないだろうが、さすがに日本では異様で目立ちそうなので、僕は固辞した。
「セルジュが私達の大切な孫であることは間違いないだろう。秋に婚約すると聞いたよ。次はそのお嬢さんにも会わせておくれ。」
と、静稀の分まで託されてしまった。
……参ったな。
さらに、Catherine(カトリーヌ)が僕の寝室にやってきた。
「これを、あなたの婚約者に、差し上げてちょうだい。我が家から婚約の品よ。」
カトリーヌが持ってきてくれたのは、天鵞絨(ビロード)の箱に大切に納められた、代々伝わる豪華な真珠の首飾りだった。
バロック調の荘重なデザインで、幾重にも真珠が並び、ところどころに金の細工と宝石がちりばめられている。
「いや、これは受け取れないよ。この家に伝わる宝石や調度品は、全て君のものだ。君が次の世代に伝えるべきものだよ。」
そう言って突き返すが、カトリーヌは両手を後ろに隠して、頭を振った。
「いいえ。それだけはダメ。他の宝石は全部私のものと思えても、それだけは私のものじゃない。私にはふさわしくないわ。」
カトリーヌの言わんとしてることが切なくて、僕は首飾りの箱を大切にテーブルに置いてから、彼女を抱きしめた。
……この首飾りは、僕の母が特に気に入っていたらしく、父との結婚式でも身につけていたそうだ。
母の肖像画にも描かれているので、僕にもまた思い入れの深いものだ。
「僕はずっと、君にとても似合うだろうと言っていたね……ごめんね……君には重荷だったんだね……。」
たぶんカトリーヌにとって、この首飾りは僕の理想の押し付けの象徴だったんだろうな。
僕の腕の中で、ふるふると震えているカトリーヌ。
あ、やばい。
僕はこのままカトリーヌを抱きたくなってる自分を感じた。
さすがに、まずい。
お互いの婚約者にも申し訳ないし、何より、僕ら自身が火遊びで終わらなくなってしまう。
あの頃より肉感的なカトリーヌに生唾を飲み込む想いをひたすら抑え込み、僕は彼女の額に口づけてから、彼女を解放した。
「ありがとう。静稀によく似合うと思うよ。」
一番残酷な言葉で、お互いの執着を断ち切ろうとした。
13年の歳月は、彼らをすっかり小さな老人に変えてしまったが、僕には以前にも増して愛しく大切に感じられた。
これまでの不義理を詫び、これからはもっと訪問することを約束した。
夜、おじいさまに呼ばれて、僕は一対の指輪を渡された。
chevalieres(シュヴァリエ-ル)……貴族の家に代々伝わる紋章をかたどった金の指輪だ。
「いや、僕は、日本人だし、姓も松本だし、受け取る資格ないから……。」
もらったからにはずっと嵌めてなければいけないだろうが、さすがに日本では異様で目立ちそうなので、僕は固辞した。
「セルジュが私達の大切な孫であることは間違いないだろう。秋に婚約すると聞いたよ。次はそのお嬢さんにも会わせておくれ。」
と、静稀の分まで託されてしまった。
……参ったな。
さらに、Catherine(カトリーヌ)が僕の寝室にやってきた。
「これを、あなたの婚約者に、差し上げてちょうだい。我が家から婚約の品よ。」
カトリーヌが持ってきてくれたのは、天鵞絨(ビロード)の箱に大切に納められた、代々伝わる豪華な真珠の首飾りだった。
バロック調の荘重なデザインで、幾重にも真珠が並び、ところどころに金の細工と宝石がちりばめられている。
「いや、これは受け取れないよ。この家に伝わる宝石や調度品は、全て君のものだ。君が次の世代に伝えるべきものだよ。」
そう言って突き返すが、カトリーヌは両手を後ろに隠して、頭を振った。
「いいえ。それだけはダメ。他の宝石は全部私のものと思えても、それだけは私のものじゃない。私にはふさわしくないわ。」
カトリーヌの言わんとしてることが切なくて、僕は首飾りの箱を大切にテーブルに置いてから、彼女を抱きしめた。
……この首飾りは、僕の母が特に気に入っていたらしく、父との結婚式でも身につけていたそうだ。
母の肖像画にも描かれているので、僕にもまた思い入れの深いものだ。
「僕はずっと、君にとても似合うだろうと言っていたね……ごめんね……君には重荷だったんだね……。」
たぶんカトリーヌにとって、この首飾りは僕の理想の押し付けの象徴だったんだろうな。
僕の腕の中で、ふるふると震えているカトリーヌ。
あ、やばい。
僕はこのままカトリーヌを抱きたくなってる自分を感じた。
さすがに、まずい。
お互いの婚約者にも申し訳ないし、何より、僕ら自身が火遊びで終わらなくなってしまう。
あの頃より肉感的なカトリーヌに生唾を飲み込む想いをひたすら抑え込み、僕は彼女の額に口づけてから、彼女を解放した。
「ありがとう。静稀によく似合うと思うよ。」
一番残酷な言葉で、お互いの執着を断ち切ろうとした。