お帰り、僕のフェアリー
二幕めのレビューは、伯父の琴線に触れたようだ。
興奮しているのが伝わってきた。
写真で榊高遠くんだけはよく知っているので、伯父はうれしそうに目で追っていた。
高遠くんもまた、伯父に笑顔を送り続けてくれた。

「どうだった?インスピレーション、刺激された?」

終幕後、伯父に尋ねると、
「すばらしかったよ!静稀は夢の国の王子様だ!」
と、わかったようなわからないようなことを言っていた。

「でもなぜ静稀は真ん中にいられないんだい?一番真ん中にふさわしいのに。」

伯父の疑問はごもっともだが、年齢やキャリアが違うから、と僕は言葉を濁した。
……下手に大人の事情だのカネコネだの言い出すと、伯父自身がスポンサーに名乗りをあげそうで厄介だ。

せっかくなので、伯父と出待ちのギャラリー(見学)をした。
今日も石井さんが張り切ってファンクラブの会員さん達を美しくまとめてくださってた。
千秋楽の異様なテンションは、見ているだけでも本当に楽しい。

伯父は、お揃いの会服にも、スクワットのように立ったり座ったりを繰り返すことにも、驚いていた。

榊高遠くんが、楽屋から出てくると、一段と大きな拍手と歓声が上がった。
いつもは塩対応と揶揄されるぐらい愛想のない照れ屋な静稀だが、今日は千秋楽だからか、会員のみなさんからのお手紙を全て受け取った後、ご挨拶の言葉を述べて謝意を笑顔で伝えていた。

素顔の静稀はやはりとてもかわいらしくて、伯父が
「確かに妖精だ!静稀はあんなに人気のあるのか!」
と感嘆していた。

静稀が楽屋を出てから、30分後。
僕は静稀を伴って、伯父の部屋を訪ねた。

静稀はたどたどしいながらも、がんばって伯父とフランス語で会話を試みた。
「お会いできてうれしいです。今までたくさんの素敵なスーツを送ってくださって、ありがとうございました。それから、今日はご観劇ありがとうございます。」

伯父は相好を崩して、静稀の手の甲に口づけた。
静稀の頬がピンク色に染まる。
「こんなに愛らしいお嬢さんだったとは。舞台と別人じゃないか。」

僕は静稀を伯父からひっぺがすように、僕の隣に引き寄せて、無理矢理笑顔をつくった。
「ティエリー、僕の静稀だからね。静稀も、そんな顔して伯父を見ないで。」
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