お帰り、僕のフェアリー
パイプオルガンの荘厳な調べが流れ始めた。
白い燕尾服に身を包み、僕は独りで祭壇の前に立つ。

後ろのドアが開き、静稀とお父さまが登場した。
広がる拍手と歓声に顔を上げた静稀は、満員の大聖堂に目を見張って驚いていた。
親しい友人と家族だけの厳かな式典のはずが、戴冠式のように参列者がぎっしり詰め込まれてるんだから、そりゃ驚くだろう。

しかし静稀の歩む道に、ファンのかたがたが両サイドから薔薇の花びらを撒いてくださるオプション付には、僕も驚いた……これは、後で教会から怒られた……。

祭壇の前で、お父さまから静稀を託される。
僕のデザインしたどこまでも上品なドレスに、大切な真珠の首飾りを輝かせて、とても美しく微笑む静稀。
僕もまたつられて、にっこり。

「綺麗だよ。妖精のようだ。」
「セルジュも素敵よ。白い王子様ね。」

僕らは、手を取り合って、神父さまの前に跪き、敬虔な信仰と永遠の愛を誓い合った。
意外と、静稀は泣いていなかった。
僕も静稀も幸せ過ぎて、ひたすらへらへらと笑顔で見つめあっていた。

教会を出ると、ガーデンパーティーさながらに、シャンパンと軽食が並んでいた。
石井さんが、せっかく来て下さったファンのかたがたへと準備してくださったらしい。
……本当に、最後の最後まで、行き届いたお世話ぶりにはどれだけ感謝しても足りない気がする。

静稀も、化粧の剥がれる勢いでぼろぼろと涙を流して石井さんにお礼を言っていた。
石井さんも泣いていた。

長い長い僕らの日々を支えてくださった恩人の一人とお別れするのは本当に淋しい。
でも、石井さんには、もう次のスター候補生の付き人をする話が来ているらしい。
頭が下がります……。

しばらくして、今度は本当の披露宴会場へ移動する。
ファンのみなさんが、歌劇団でよく歌われる別れの時の歌を合唱して送り出してくださった。

披露宴には、静稀のお世話になった歌劇団関係者や生徒達を多く招いたので、えらく華やかな場となった。
親友達も、心から祝ってくれた。
「何もしないと体がなまるから、舞いにくるといい。」
と、彩乃は静稀を勧誘することを忘れてなかった。

静稀とCatherine(カトリーヌ)は、披露宴で初めて顔を合わせた。
「これから仲良くしましょうね。姉妹のように。フランスで待ってるわ。」

カトリーヌの真意を知る僕は背中に冷や汗をかいたが、静稀は言葉通りに受け取ってとても喜んでいた。
これからもこの従妹に僕は振り回されるのだろうか。

夜になり、ようやく披露宴がお開きとなる。
僕らは並んで一人一人を見送ってから、家族にも挨拶をする。
今夜、みんなはこのホテルに泊まる。
僕らは、2人で市役所に婚姻届を提出しに行ってから、再びホテルに戻ってきた。

一応、初夜。
薔薇の花びらの敷き詰められたスイートの広いベッドで、僕らは愛をいっぱい伝え合った。
夢のように幸せだった。

この幸せが永遠に続くと、僕たちは信じて疑わなかった。
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