お帰り、僕のフェアリー
それは突然の、あまりにも唐突な知らせだった。

結婚式の翌日、静稀の両親とおじいさま、そして僕の父を見送るため、僕らは新神戸へ向かった。
その後、再びホテルに帰り、伯父とCatherine(カトリーヌ)を我が家へ連れ帰る。

「素敵な家ね。」
我が家は古い洋館だが、数年ごとに手を入れているので、客観的にはよく見える。
今回も、静稀を迎えるにあたって、お台所・トイレ・バスの水回りを改修し、電気とガスのコンセントを増設してもらった。

「客室がいくつもあるから、気に入ったなら、好きな時にくればいい。」
少女趣味な祖母がこだわった家は、やはり女性に喜ばれるらしい。

カトリーヌは目を輝かせてドアというドアを開けては覗いている。
「お行儀悪いから他ではするなよ。」

ついそう言うと、カトリーヌは僕をちょっと睨み、静稀に向かって言った。
「静稀、本当にこんなうるさいのと結婚生活やっていけるの?めんどくさい男よ~。」

静稀はカトリーヌのくだけたフランス語を理解しようと一生懸命聞いて、ゆっくり返事をした。
「私も、めんどくさい女ですから。」
……そうだね……と、同調していいのかわからず、僕は曖昧に微笑んだ。

カトリーヌはそんな僕らを興味深く眺めていた。
どうやら、カトリーヌは静稀をけっこう気に入ったらしい。
僕としては複雑だが、友好的な分には特に問題も生じないだろう。

カトリーヌの相手を静稀に任せ、僕は伯父を隣の客室へ案内した。
「静稀は、不思議な子だね。まさかカトリーヌが打ち解けるとは思わなかったよ。」

伯父の言葉に僕は苦笑した。
「ほんわりした空気を醸し出して周囲の人間を癒すんだよね。」

伯父がにやりと笑う。
「なるほど。セルジュもそれで静稀には優しいのか。てっきり人として成長してみんなに優しくなったのかと勘違いしてたよ。」

「……そうかもしれない。単に惚れた弱みで下手(したて)に出てるのなら16年も続かないか。僕、静稀にだけはすごく甘いよね、確かに。」

今更ながら、自分で納得した。
伯父はそんな僕を目を細めて見ていた。


僕らが荷ほどきしてると、カトリーヌがドアを勢いよく開けて入ってくる。

「 frapper(ノック)してから!」
と僕が叱るのを無視して、カトリーヌは静稀と腕を組んで
「静稀と買物に行ってくるわ!」
と、はしゃいで言った。

「これから?もうすぐマサコさんが来てくださるよ?」
静稀にそう言うと、ちょっと困ったように日本語で答えた。

「……日本の下着に興味があるみたい、カトリーヌさん。」

あ~……。
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