お帰り、僕のフェアリー
僕の潔癖さをよく知っている義人は、鼻で笑って言ってのけた。
「男と女の行き着く先は、どう言葉で飾り立てても、同じやろ。」

お前と一緒にしないでくれ!

僕の心の声が聞こえたのか、義人は肩をすくめた。
「わかったから、怒んなよ。本気で喜んでるねんから。セルジユのお眼鏡にかなう子がやっとあらわれて。天使のような、おっとりしたお嬢様なんやろ?」

天使、そうだな。

「心の美しさと清らかさがそのまま具現化したような、かわいらしいお嬢さんだよ。お嬢様かどうかは、何も聞いてないから知らないけど、品はあった。」
静稀のことを思い出すと、勝手に頬がゆるんでくる。

「間違いなく、ええとこの子やと思うで。料亭で臆せず自然体でいてはったもん。京都以外では一般人はなかなか料亭に行かへんでしょ。マナーも完璧やったよ。」
朝の挨拶もなく、由未がそう言いながら食堂に入ってきた。

「まずは、おはよう、だよ。おはよう、由未。あのお店を選んだのは、静稀を試したのかい?」

「俺が教えただけや。便利に使えるいい店やろ?」
妹に、というか、女性みんなに甘い義人が、由未をかばう。

兄の庇護下で、由未はやっと
「おはよ」
と、挨拶した。

義人は、さらに続けた。
「ジェンヌと付き合う上で、避けて通れないのがファンの目なんや。特に男役の子にとっては、男と歩いてるのを見られただけで、ファンを幻滅させてしまうからなあ。」

経験者は、しみじみと語る。
「セルジユの天使も男役やろ?気ぃ付けてあげや~。メンタル弱い子やから。」

ん?
既に静稀を知ってるかのような口調に、ひっかかる。
オトモダチのジェンヌに何か聞いたのか?

「由未、自分のパンをトーストしといで。冷めるからお前のぶんはまだ焼いてへんで。」
義人は由未を台所に追いやり、小さな声で話し出す。

聞けば、義人は現在3人のジェンヌとオトモダチらしい。
夕べ、彼女らから情報を得たところ、榊高遠なる研1生は、既に知る人ぞ知る存在なんだそうだ。
音楽学校の成績は普通だし、文化祭でも目立った役は与えられなかった。
でも、舞台のどこにいても、何となく目を引く存在らしい。
それをおもしろく思わない同期や先輩から、嫌がらせを受けることも多いそうだ。
かわいそうに……

「よく泣いてるらしいで。独りで。」

僕は、心臓をわし掴みにされたかのように、胸が痛くなった。

「学校時代は、同室の子が庇ってくれてたらしいわ。虐めからも、合コンのお誘いからも、ビアンの先輩からも。」

ビアンって、レズビアン、だよな。
そういう危険もあるのか。

「問題はこれからやな。どの組に誰と配属されるかで、天と地ほどの差があると思うわ。ええ子らしいから、すぐ庇護者は現れるやろうけど、それがビアンじゃないといいな。」

う~ん。
何だかものすごく心配になってきた。
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