お帰り、僕のフェアリー
「眉間に皺寄せて悩んでてもしゃあれへん。とりあえず、見に行こう。」
ヨーグルトのスプーンを口に運びながら、義人が誘いをかける。

「やだよ。昨日の今日で、そんな。ストーカーじゃないんだから。」

トーストを持って戻ってきた由未が、僕の弱気をバッサリ斬った。
「何それ!意味わからん!お互いに好きねんろ?セルジユ、プライド高過ぎ!」

ぐうの音も出なかった。

実のところ、由未は、片思いの高校サッカーの選手を追いかけて、わざわざ京都の実家を出て、うちに下宿しているのだ。
報われない恋にしがみついて、不器用に生きている由未の言葉は、まっすぐ僕に突き刺さった。

「由未、自分の尺度で他人を測ったらあかん。セルジュのプライドが高いんはほんまやけどな。」
ニコニコと笑顔で由未をたしなめる義人。

由未は口をとがらせて、
「だって、静稀さん、かわいかってんもん。泣いてはるとか、かわいそうすぎるわ。セルジュで元気にならはるんやったら、簡単なことやん。」
と、僕の胸にだめ押しの一撃。

結局、竹原兄妹に連れられて、僕らは静稀の「入り待ち」をしに行くことになってしまった。

駅から劇場へ繋がる通称「花の道」では、桜がちらほら咲き始めている。
春の日射しと、やわらかい東風が心地いい。
義人の車を駐めた駐車場から、僕は大劇場のほうへ歩き始めた。

「そっちちゃうで。あっち。」
義人が指さす方向は、花の道のさらに奥。
「楽屋口のほうに行かんと。」

……何だか、人がたくさんいる。

「ジェンヌの入り待ちや。」

え!?あんなに!!
100人以上いるんじゃないか?
よくわからないが、大人数が整列して、立ったり座ったりしてる。

「普通に突っ立ってるのが、ギャラリーと言われる一般のファン。立ったり座ったりしてるのはファンクラブの会員で、何も知らん奴がジェンヌに近づかへんようにガードしてるんや。ただし、ギャラリーにジェンヌが見えへんくならへんように、ジェンヌが通るたびに一斉に座るねん。」

へえ~~~!!!
幼少時から何度も来ているが、はじめて知ったよ。
こういう世界があったのか。
妙に統率された動きは、清々しくさえ感じる。

「花の道でギャラリーすると、たぶん俺らは目立つから、店に入るぞ。」
義人について、楽屋口付近を通り過ぎる。

なるほど、子供からおばあちゃんまで、ギャラリーもファンクラブ会員もほぼみんな女性だ。
男性も数人いるが、立派な一眼レフを構えている。
ここに僕らがつっ立って居たら、確かに異様か。

何軒かの店を通り過ぎ、劇場からかなり離れたカフェへ。

「何でここまで離れるの?もっと楽屋口の近くにお店あったやん。」
僕も不思議に思ったことを、由未が義人に質問する。

「ファンが下級生に話しかけたり、ファンレターを渡すにも独特のルールがあるらしくてな、研1の生徒には劇場から離れたところじゃないとあかんらしいわ。」

はあ~~~。
さすが、というか、なんと言うか……
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