お帰り、僕のフェアリー
「謝らないで。僕らが勝手に来たんだから。君の姿を見られただけで充分だよ。いや、こうして声を聞けて、むしろ得した気分だ。ありがとう。」

すぐそばで義人と由未が凝視してるのに、僕は浮かれている自分を自覚していた。

『あの、め、メールとか、ラインとか、電話とか……しても、迷惑じゃないですか?』

迷惑、なわけないじゃないか。
むしろ、うれしいに決まってる。
そう言おうとして、はじめて、僕自身も静稀の時間を慮って夕べからメールも電話も敢えてしてなかったことを自覚した。

「また、同じだね。僕も遠慮してたみたいだ。あのね、静稀が連絡をくれたら、僕はいつでもうれしい。僕のほうが暇なんだから、静稀は時間を気にしなくていいからね。」

『はい!じゃ、ちょこちょこ連絡入れますね。あの、せ、セルジュ……』
「ん?」

少しの逡巡を経て、静稀が意を決したように言った。
『私も、セルジユに会いたかったの。すごく、会いたかったの。せめて、どこにいるか教えてくれてたら、私もセルジユを見られたのに。ちょっと、くやしい。』

…だめだ。
静稀、かわいすぎる。
くやしい、って!あ~!もう!
そんな風に思ってくれることが、うれしくてうれしくて。

「じゃ、3人でシャンシャンを持った写真でも送るよ。」
そう約束して、電話を終えた。
義人と由未の存在を忘れて、僕はつい名残惜しく、携帯電話を見つめてしまっていた。

「セルジユ、鼻の下がのびてたよ。比喩じゃなくて。マジで。」
由未の半ば呆れた声で我に返る。

「あ~……由未、ありがとう。彼女にメールしてくれて。」
照れくさいが、由未のおかげなので、とりあえずお礼を述べておく。

「俺にも~!ありがとうって、言うて~な。」
義人にねだられ、苦笑。

「そうだね。ありがとうな。朝っぱらからアポなし強襲して、引っ張ってきてくれて。お前のおかげで、彼女を見られたよ。」

僕がそう言うと、義人は満足げに笑った。
「セルジユのそんな顔見るの、ほんまに久しぶりな気がするわ。彩乃の、例の舞踊公演以来?」
そういや、そんなこともあったな。

彩乃は、高校の時からの、もう一人の親友だ。

女舞を得意とする舞踊家で、その美貌と女性のような名前のせいで、義人も僕も舞台を見て女性と勘違いして、一瞬、惚れた。
終演後、すぐに男とわかって、仲良くなった。

現在は、理系のまじめな大学生なので、なかなか会えないが、大切な友達だ。

「彩乃にも教えてやろう♪セルジユにジェンヌの彼女ができたって。」
早速、携帯電話を取り出す義人を、僕には止める術もなかった。

それから僕らは、団体客が記念撮影をしている場所へ行き、写真屋さんに撮影してもらった。
もちろん、シャンシャンを持って。
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