お帰り、僕のフェアリー
長い一週間がようやく過ぎた。
由未は既に新学期に突入したため、朝から高校へ行っている……また飽きもせず、サッカー部の練習を見続けるんだろう。
僕は一人で昼食を済ませ、普段通りにしてようとしているのだが、どうも落ち着かない。
13時ちょうどに玄関チャイムが鳴ると、思わず飛び出してしまった。
……いつも通りの時間に家政婦さんが来てくれただけなのに。
自室で先週借りた本を読んでいると、静稀から連絡が入った。
〈今、タクシーに乗りました。30分弱で着くそうです。〉
あと、30分!
僕はそわそわと立ったり座ったりしていたが、やはりじっとしてられず、一階へ降りた。
甘い香りが漂っている。
「いい香りがしますね。何を作ってらっしゃるんですか?」
祖父母の生前からお世話になっている、ベテラン家政婦のマサコさんにそう尋ねる。
「由未さんにお願いされましてね、今日は大事なお客様が来られるから、お茶菓子と夕食を豪勢にしてほしい、って。先ほどアップルパイが焼けましたよ。味見しますか?」
……由未。
普段、そんなに気が利く子だとは思わないが、こと静稀に対しては、あれこれと配慮してくれる。
先週のシャンシャン写真も、僕は3人映りの画像をラインにアップしたのだが、由未はこっそり僕1人の写真を撮影して静稀に送信していたらしい。
あの夜、お稽古を終えた静稀がうれしそうに電話で報告してくれた。
あれから、静稀とはこまめに連絡を取り合っている。
夜には必ず、電話で話すようになった。
少しずつ、静稀に関する情報が僕の中に蓄積されていく。
僕の中で、静稀がどんどん大きくなっていく。
「来られましたよ。」
マサコさんが、玄関へゆっくりと向かう。
まだドアチャイムは鳴っていない。
マサコさんは、我が家の前に駐まるタクシーのエンジン音で、いつも僕らも迎えてくれるのだ。
「いらっしゃいませ。」
マサコさんが上機嫌でドアを開けると、驚いた顔の静稀が立って居た。
「やあ、いらっしゃい。こちらは、マサコさん。我が家のfemme de ménage(家政婦さん)をしてくださってるんだ。今日は静稀のためにアップルパイを焼いてくださったらしいよ。」
静稀の手を取り、家の中へいざなう。
「まあ!ありがとうございます!私、アップルパイ大好きです。はじめまして。小堀静稀と申します。よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をする静稀に目を細めるマサコさんを見て、僕はちょっとほっとした。
家政婦さんとは言っても、マサコさんは僕の半分家族みたいな存在だ。
やはりよい印象を抱いてくれると、うれしい。
静稀なら問題ないとは思っていたが。
由未は既に新学期に突入したため、朝から高校へ行っている……また飽きもせず、サッカー部の練習を見続けるんだろう。
僕は一人で昼食を済ませ、普段通りにしてようとしているのだが、どうも落ち着かない。
13時ちょうどに玄関チャイムが鳴ると、思わず飛び出してしまった。
……いつも通りの時間に家政婦さんが来てくれただけなのに。
自室で先週借りた本を読んでいると、静稀から連絡が入った。
〈今、タクシーに乗りました。30分弱で着くそうです。〉
あと、30分!
僕はそわそわと立ったり座ったりしていたが、やはりじっとしてられず、一階へ降りた。
甘い香りが漂っている。
「いい香りがしますね。何を作ってらっしゃるんですか?」
祖父母の生前からお世話になっている、ベテラン家政婦のマサコさんにそう尋ねる。
「由未さんにお願いされましてね、今日は大事なお客様が来られるから、お茶菓子と夕食を豪勢にしてほしい、って。先ほどアップルパイが焼けましたよ。味見しますか?」
……由未。
普段、そんなに気が利く子だとは思わないが、こと静稀に対しては、あれこれと配慮してくれる。
先週のシャンシャン写真も、僕は3人映りの画像をラインにアップしたのだが、由未はこっそり僕1人の写真を撮影して静稀に送信していたらしい。
あの夜、お稽古を終えた静稀がうれしそうに電話で報告してくれた。
あれから、静稀とはこまめに連絡を取り合っている。
夜には必ず、電話で話すようになった。
少しずつ、静稀に関する情報が僕の中に蓄積されていく。
僕の中で、静稀がどんどん大きくなっていく。
「来られましたよ。」
マサコさんが、玄関へゆっくりと向かう。
まだドアチャイムは鳴っていない。
マサコさんは、我が家の前に駐まるタクシーのエンジン音で、いつも僕らも迎えてくれるのだ。
「いらっしゃいませ。」
マサコさんが上機嫌でドアを開けると、驚いた顔の静稀が立って居た。
「やあ、いらっしゃい。こちらは、マサコさん。我が家のfemme de ménage(家政婦さん)をしてくださってるんだ。今日は静稀のためにアップルパイを焼いてくださったらしいよ。」
静稀の手を取り、家の中へいざなう。
「まあ!ありがとうございます!私、アップルパイ大好きです。はじめまして。小堀静稀と申します。よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をする静稀に目を細めるマサコさんを見て、僕はちょっとほっとした。
家政婦さんとは言っても、マサコさんは僕の半分家族みたいな存在だ。
やはりよい印象を抱いてくれると、うれしい。
静稀なら問題ないとは思っていたが。