お帰り、僕のフェアリー
紅茶を流し込んだあと、僕はラタンカウチに移動して、静稀を手招きする。

おずおずと、静稀がやってきて、僕の隣にちょこんと座る。
いかにも緊張しているのが、また、かわいくてかわいくて。

「Je t'aime....静稀、Je t'aime beaucoup.」
愛してるよ、と、僕は何度もつぶやきながら、静稀の手を取り、美しい白い甲に口づけた。

赤くなった静稀の頬にも、まばたきしたそのまぶたにも、あふれ出た涙にも口づける。

「おいで。」
静稀を一旦立たせて、僕の膝の上に座らせる。

「え!あの!私、重いです!」
あたふたする静稀。

「重くないよ。でも重くなってもかまわない。二人の時は、いつもここに座ってほしい。」
そう言いつつも、静稀の首筋、肩、耳、こめかみ、と口づけを続ける。

「溶けちゃいそう……」
確かに、静稀の目がとろ~んとしてきた。

「まだ早いよ。」
僕はそう言って、静稀の鼻をぺろりと舐めた。

「きゃっ!」
反射的にのけぞろうとした静稀の頭を両手でしっかりと捉えて、至近距離で見つめる。

「逃がさないから。」
僕の言葉に、静稀の瞳が喜びに潤む。
かわいい。

僕は、そっと静稀の唇に口づけて、また静稀を見つめる。
静稀は、小さく震えていた。

「僕が怖い?」
ちょっとおどけて聞いてみる。

静稀は、ぶんぶんと首を横に振る。
「……ごめんなさい……男の人とキスするの、はじめてで……あの、でも、嫌じゃないです!……幸せすぎて、死んでしまいそうです……」

女性とは、したことあるんだ。
ちょっと引っかかったけど、その後の言葉に僕は微笑む。

「まだまだだよ。」
そう言って、もう一度静稀の唇を捉える。

「Je t'aime...」
何度も何度も、数え切れないほどの、唇を合わせるだけの口づけと「愛してる」の言葉を繰り返す。

鳥がついばむような口づけの嵐に慣れたのか、静稀が笑顔になってきた。
それを確認して、今度は静稀を静かにカウチに押し倒し、深く口づけた。

静稀は一瞬目を見開いたが、すぐにまぶたを閉じて僕を受け容れた。

僕たちは、深く深く舌を絡めあった。


このまま、サンルームで静稀を抱いてしまおうか。

何度も襲う欲望を、理性で追い払う。

夕方には由未が帰ってくる。
万が一、静稀に恥ずかしい想いをさせてしまったら、かわいそうすぎるよな。
僕も、ゆっくり時間をかけて、愛したい。

「静稀が丸一日休めるのは、いつ?」
静稀に体重をかけないよう、傍らに左肘をつき、右手で静稀の額から髪を撫でながら尋ねる。
本当は二日間、と言いたいところだが。

いつも以上にぽ~っとした静稀は呂律が回らないらしい。
「…あの…ら、来週は、午前中がダメれ、そろ次は舞台稽古が始まって、本公演に突入するろれ…。」

ん?
公演が始まったら、新人公演のお稽古が始まって、休める状況じゃないはず。
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