お帰り、僕のフェアリー
彩乃の稽古が始まるまでの3日間を、僕と静稀は2人きりで過ごした。

今回、義人に紹介されたのは、有馬温泉の奥に位置した美しい隠れ家的な宿だった。
3度の食事も申し分のない材料とお味で、何日でも飽きることなく宿泊できるらしい。

お行儀はよくないが、前に約束した通り、静稀は僕の膝で全ての食事を取った。
恥じらう静稀がかわいくてしょうがなくて、僕らは何度も食事を中断することになったが。

「あの……先に、温泉に入ってきてもいいですか?」

夕方に到着してすぐ食事を準備してもらったため、僕らはまだ温泉に入っていない。

「ん?一緒に入らないの?せっかく2人きりになれる露天温泉なのに。」
悪戯心でそう言うと、静稀は真っ赤になって、
「い、いきなりですか!?あの、あとで……つ、次に……。」
と、しどろもどろになった。

「約束だよ。それじゃ、今回は、いってらっしゃい。」

静稀の首筋に軽く口づけした後で、彼女に手を貸して、僕の膝から立ち上がらせた。
おぼつかない足取りで、静稀は露天ではなく内湯へ入りに行った。

静稀のいない間に、食事の片付けをお願いする。
仲居さんに任せて、僕は部屋の露天温泉で濃い金泉を楽しんだ。

糊の効いた浴衣を素肌に身に着け、体内に籠もる温泉の熱の余韻を、初夏の夜風で冷ましていた。
すっ、と、軽やかに障子が開く。
おそろいの浴衣を身に着けた静稀が、頬を上気させて戻ってきた。

「おかえり。こっちにおいで。夜風が気持ちいいよ。」

静稀は、ちょこちょことやってきて、僕の座っている隣の円座(わろうだ)に腰を下ろそうとした。

「違うよ。こっち。」
手をさしのべると、静稀はおずおずと僕の手を取る。
僕は静稀の手を引いて、もう一方の手で静稀の腰を抱える。

「え?え?え?」

おろおろしてる静稀を、僕の膝の上でお姫様抱っこしてしまう。
真っ赤になって、僕を見上げる静稀。

「赤ちゃんになった気分……」

静稀の言葉を遮るように、唇をついばむように口づける。

「赤ちゃんに、こんなことしない。」
そう言って、静稀を強く抱きしめる。

「ma princess(僕のお姫様)」

何度もつぶやいては、深く口づけた
今日は唇が明太子になっても大丈夫だからね。


「あの……毛布か、何か、頼んだ?」
魅惑的な赤い唇で、息も絶え絶えにそう聞く静稀。

「いや?……ああ。もしかして、何か届いてた?」

アレ、かな?
よいしょっと。

僕は、静稀をお姫様抱っこしたまま、立ち上がる。
慌てて、僕の首に両手を回してしがみつく静稀がとてもかわいい。
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