お帰り、僕のフェアリー
「障子を、開けてくれるかい?」

静稀を抱っこしたまま座敷に戻ると、座卓の上に大きなピンク色の箱が置かれていた。

これだ。
思ったより早かったな。
由未かマサコさんが、転送してくれたのか。

「これ、僕から静稀へのプレゼント。毛布でも羽毛蒲団でもないよ。」
笑いながらそう言って、静稀を静かに座布団におろす。

「開けてみて。僕も完成品は初めて見るから。」

静稀は不思議そうに、箱の蓋を開ける。
「え?何?薔薇?」

ん?
静稀の背中越しに、僕も箱をのぞき込む。

僕のつたないデザイン画を伯父の優秀なパタンナーとスタッフが形にしてくれたドレス……のはずなのだが、上面にはピンクの薔薇が敷き詰めてあった。

「プリザーブドフラワーですね。」
静稀が薔薇を1つすくい上げて、僕に渡す。

伯父の演出か。

「その下がメイン、ね。」
苦笑しながら、静稀を促す。

静稀は、薔薇を壊さないように、せっせと取り出し、ようやくドレスを箱から出した。
「え?これ?ドレス?何で?」

「静稀に、僕のはじめての作品をもらってほしくて、ちょっとがんばってみました。」
……実際にがんばったのは、僕より、伯父とそのスタッフのような気もするが。

「セルジュが?作ったの?これを?」

「う~ん。微妙。正確には作ってくれたのは、フランスの伯父の会社。僕はデザインしただけなんだ。」

「デザイン……」
静稀はまだ理解できないらしく、首をかしげながら、ドレスを箱から完全に出して、ふわふわのチュールをなでる。
「気持ちいい……」

ドレスの全体像より、まず手触りが気になったらしい静稀に僕は苦笑した。

由未が指摘していたが、静稀はやはり少し変わってるのかな。
でも、その変な部分が僕と似ている、とも由未が言っていた。
実際に僕がこだわったのも、静稀の着心地だった。

「機械編みのラッシェルチュールだけどね、シルクにしてもらったんだ。踊れるぐらい動きやすいはずだよ。今度、それを着て踊ってほしいな。我が家の玄関ホールね、カーテンで隠れてるけど、1面が鏡張りでバーレッスンもできるんだよ。」

静稀は、僕の言葉を聞いて、ぱっと顔を輝かせてうなずいた。
「やっぱりあの床!そうなんですね!うちのお稽古場と同じ感触だと思ったんです!」

「祖母が、娘か孫娘ができたら、バレエを習わせたかったみたいだ。結局、子供も孫も男だったんだけどね。だから、静稀が使ってくれたら、うれしい。日舞のお稽古も鏡があったほうがいいだろ?」
静稀はドレスを胸にかき抱いて、ほろりと涙をこぼした。
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