お帰り、僕のフェアリー
「そのままでもいいのに。」
そうからかいながら、夕べ脱がせた静稀の浴衣を羽織らせてあげる。
「ドレス、ドレス、皺出来てない?」
浴衣の裾をはためかせ、静稀は夕べ落としたまんまのドレスに駆け寄る。
日光の下で見ると、ドレスの微妙な色合いがよくわかる。
一見ピンクに見えるタフタの身頃は、白・赤・青の3色の糸を合わせたもので、スカート部の白いチュールの重なりの最下層にはトリコロールに染め分けたシルクジョーゼット。
三色旗(トリコロール)をモチーフにした割には、柔らかい色合いに仕上がり、静稀に似合うと思うのだが。
「ロケット(ラインダンス)のお衣装をアレンジしたの?」
「うん。あれもかわいかったけど、普段の静稀にはこのほうが似合うかなって。」
「うれしい。すごくかわいい。私だけのために……」
静稀の瞳がうるうる揺れる。
いや、そのはずだったんだけどね。
「あのね、一つ謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
僕の困った顔を見て、静稀の涙が止まる。
「全く同じものではないらしいんだけど、このトリコロールのチュールドレスをね、ハリウッド女優がカンヌ映画祭で着たらしいんだ。」
「え?」
「つい2日前に。」
「え?」
「ごめん!先、こされちゃった!でも、本当に、静稀のために考えたんだよ~。」
そう、こんなことになるとは思わなかったんだ。
伯父の顧客が、僕のデザイン画と作りかけのドレスを見て、同じものをオーダーした、そうだ。
……実際には、伯父が顧客に勧めたのかもしれない……伯父馬鹿だからな、Thierry(ティエリー)は。
とにかく、僕が静稀のために考えたドレスのパターンは、1人の女優に買われたことによってワールドワイドに広まり、現在数十着の予約の入ったプレタクチュールの売れ筋商品となってしまった。
もちろん全く同じものではなく、国旗モチーフということで色違いの注文も多いらしいが。
「……まだよくわかってないんですけど、つまり、セルジュはプロのデザイナーになったの?」
静稀の質問は、核心をついてきた。
僕はためらいながら答えた。
「デザインで報酬を得ただけで、プロのデザイナーを名乗ることはできないと思う。」
そう、やっとスタート地点に立っただけなんだ。
「静稀の初舞台を観て、僕も始めることにしたんだよ。予定では高等遊民で人生を終えるはずだったのに、背負わなくていい苦労を背負うことになってしまった。」
ため息をつきながら、静稀に手を伸ばし、抱き寄せる。
一緒にがんばろう、なんて陳腐なことは言わない。
「静稀が歌劇団をクビになっても愛してるから、僕が挫折して高等遊民に戻っても嫌いにならないでね。」
僕の情けない本音を、冗談か逆説的な励ましと捉えたのか、静稀は晴れやかに笑って、うなずいた。
そうからかいながら、夕べ脱がせた静稀の浴衣を羽織らせてあげる。
「ドレス、ドレス、皺出来てない?」
浴衣の裾をはためかせ、静稀は夕べ落としたまんまのドレスに駆け寄る。
日光の下で見ると、ドレスの微妙な色合いがよくわかる。
一見ピンクに見えるタフタの身頃は、白・赤・青の3色の糸を合わせたもので、スカート部の白いチュールの重なりの最下層にはトリコロールに染め分けたシルクジョーゼット。
三色旗(トリコロール)をモチーフにした割には、柔らかい色合いに仕上がり、静稀に似合うと思うのだが。
「ロケット(ラインダンス)のお衣装をアレンジしたの?」
「うん。あれもかわいかったけど、普段の静稀にはこのほうが似合うかなって。」
「うれしい。すごくかわいい。私だけのために……」
静稀の瞳がうるうる揺れる。
いや、そのはずだったんだけどね。
「あのね、一つ謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
僕の困った顔を見て、静稀の涙が止まる。
「全く同じものではないらしいんだけど、このトリコロールのチュールドレスをね、ハリウッド女優がカンヌ映画祭で着たらしいんだ。」
「え?」
「つい2日前に。」
「え?」
「ごめん!先、こされちゃった!でも、本当に、静稀のために考えたんだよ~。」
そう、こんなことになるとは思わなかったんだ。
伯父の顧客が、僕のデザイン画と作りかけのドレスを見て、同じものをオーダーした、そうだ。
……実際には、伯父が顧客に勧めたのかもしれない……伯父馬鹿だからな、Thierry(ティエリー)は。
とにかく、僕が静稀のために考えたドレスのパターンは、1人の女優に買われたことによってワールドワイドに広まり、現在数十着の予約の入ったプレタクチュールの売れ筋商品となってしまった。
もちろん全く同じものではなく、国旗モチーフということで色違いの注文も多いらしいが。
「……まだよくわかってないんですけど、つまり、セルジュはプロのデザイナーになったの?」
静稀の質問は、核心をついてきた。
僕はためらいながら答えた。
「デザインで報酬を得ただけで、プロのデザイナーを名乗ることはできないと思う。」
そう、やっとスタート地点に立っただけなんだ。
「静稀の初舞台を観て、僕も始めることにしたんだよ。予定では高等遊民で人生を終えるはずだったのに、背負わなくていい苦労を背負うことになってしまった。」
ため息をつきながら、静稀に手を伸ばし、抱き寄せる。
一緒にがんばろう、なんて陳腐なことは言わない。
「静稀が歌劇団をクビになっても愛してるから、僕が挫折して高等遊民に戻っても嫌いにならないでね。」
僕の情けない本音を、冗談か逆説的な励ましと捉えたのか、静稀は晴れやかに笑って、うなずいた。