お帰り、僕のフェアリー
それから僕らは、部屋に隣接された専用の露天風呂に入った。
初夏の陽光が静稀の白い肌に降り注ぐ。
「日陰にお入り。日焼けするよ。」
そう言って、恥ずかしがる静稀を手招きする。
もちろん、温泉の中でも、僕は静稀を膝の上に座らせた。
さすがに、ここで静稀を抱くのは、諦めることにする。
破瓜で傷ついたばかりの静稀に、塩分の高い有馬の金泉はかわいそうだから、ね。
新しい浴衣に着替えて、障子を開けると、既に朝食兼昼食の準備が整えられ、乱れた寝具も整えられていた。
いつのまに!
宿の人が来ていたことに全く気づかなかったよ。
……温泉で静稀と戯れなかったことを、心から安堵した。
「美味しそう!お腹すいた~!」
静稀が、配膳されたお料理に歓声をあげる。
「そういや、夕べの夕食から飲まず食わずだったかも。ごめんね、気づいてあげられなくて。」
夢中でそれどころじゃありませんでした。
「ううん、私も、今まで忘れてたから。胸いっぱいで。なぜか、のども乾かなかった……」
そこまで言って、静稀は赤くなって口をつぐんだ。
僕の唾液をいっぱい流し込まれたことを思い出したんだろう。
実際、それでのどが潤うものでもなかろう。
夕べは静稀がつらくならないよう気遣うことが最優先だったけど、今夜はいっぱい感じてもらう予定なので、枕元に飲み物を忘れないようにしよう。
「さ、食事にしようか。おいで。」
恥ずかしそうに、僕の膝に座る静稀が、愛しくてたまらなかった。
午後からも、僕らは出かけることもなく、部屋でくっついて過ごした。
テレビを付けることもなく、携帯電話の存在すら忘れていた程だ。
夕食の後、静稀がメールをチェックして、変な声を上げた。
独りで逡巡して答えが出なかったらしく、僕にメールの文面を見せてきた。
〈今朝はいかに。文などものしつや。〉
とだけ書かれたメール。
僕は思わず唸ってしまった。
誰からだ?
「これって、誤字じゃないですよね?古典か何かだと思うんですけど、わかりますか?」
そういえば、中卒で歌劇団に入ったんだったね、静稀は。
いかにも優秀で頭がいい子だから忘れてたよ。
「これはね、源氏物語の光源氏の台詞なんだよ。光源氏の息子の夕霧と、幼なじみの雲居の雁の話は知ってる?」
「あ、はい……いえ……あの、少女漫画で読んだので登場人物と筋はわかるんですが、原文は読んだことないです。あ、歌劇団の昔の舞台でも見ましたが。」
「そっか。まあ、源氏は古典の中でも難しいからお勧めしにくいけど、こんなメールを寄越すお友達がいるなら、静稀も勉強してもいいかもね。これはね、夕霧と雲居の雁がやっと初恋を成就させて結ばれたその翌朝に、光源氏が夕霧に対してかけた言葉だよ。つまり、静稀が僕とここで過ごしてることを知っててうまくいってるかどうか心配してるんだろ。」
つい語尾が苦々しくなってしまった。
初夏の陽光が静稀の白い肌に降り注ぐ。
「日陰にお入り。日焼けするよ。」
そう言って、恥ずかしがる静稀を手招きする。
もちろん、温泉の中でも、僕は静稀を膝の上に座らせた。
さすがに、ここで静稀を抱くのは、諦めることにする。
破瓜で傷ついたばかりの静稀に、塩分の高い有馬の金泉はかわいそうだから、ね。
新しい浴衣に着替えて、障子を開けると、既に朝食兼昼食の準備が整えられ、乱れた寝具も整えられていた。
いつのまに!
宿の人が来ていたことに全く気づかなかったよ。
……温泉で静稀と戯れなかったことを、心から安堵した。
「美味しそう!お腹すいた~!」
静稀が、配膳されたお料理に歓声をあげる。
「そういや、夕べの夕食から飲まず食わずだったかも。ごめんね、気づいてあげられなくて。」
夢中でそれどころじゃありませんでした。
「ううん、私も、今まで忘れてたから。胸いっぱいで。なぜか、のども乾かなかった……」
そこまで言って、静稀は赤くなって口をつぐんだ。
僕の唾液をいっぱい流し込まれたことを思い出したんだろう。
実際、それでのどが潤うものでもなかろう。
夕べは静稀がつらくならないよう気遣うことが最優先だったけど、今夜はいっぱい感じてもらう予定なので、枕元に飲み物を忘れないようにしよう。
「さ、食事にしようか。おいで。」
恥ずかしそうに、僕の膝に座る静稀が、愛しくてたまらなかった。
午後からも、僕らは出かけることもなく、部屋でくっついて過ごした。
テレビを付けることもなく、携帯電話の存在すら忘れていた程だ。
夕食の後、静稀がメールをチェックして、変な声を上げた。
独りで逡巡して答えが出なかったらしく、僕にメールの文面を見せてきた。
〈今朝はいかに。文などものしつや。〉
とだけ書かれたメール。
僕は思わず唸ってしまった。
誰からだ?
「これって、誤字じゃないですよね?古典か何かだと思うんですけど、わかりますか?」
そういえば、中卒で歌劇団に入ったんだったね、静稀は。
いかにも優秀で頭がいい子だから忘れてたよ。
「これはね、源氏物語の光源氏の台詞なんだよ。光源氏の息子の夕霧と、幼なじみの雲居の雁の話は知ってる?」
「あ、はい……いえ……あの、少女漫画で読んだので登場人物と筋はわかるんですが、原文は読んだことないです。あ、歌劇団の昔の舞台でも見ましたが。」
「そっか。まあ、源氏は古典の中でも難しいからお勧めしにくいけど、こんなメールを寄越すお友達がいるなら、静稀も勉強してもいいかもね。これはね、夕霧と雲居の雁がやっと初恋を成就させて結ばれたその翌朝に、光源氏が夕霧に対してかけた言葉だよ。つまり、静稀が僕とここで過ごしてることを知っててうまくいってるかどうか心配してるんだろ。」
つい語尾が苦々しくなってしまった。