お帰り、僕のフェアリー
静稀は、慌てて取り繕った。
「あ!ごめんなさい!咲ちゃんです。千秋楽の前の夜に、咲ちゃんにだけ言っちゃいました。咲ちゃん、高卒で音楽学校に入学したから何でも知ってるんです。特に古典が好きで。公演中にも素敵な和歌を教えてもらったんです。」

音楽学校時代に同室だった咲ちゃん、か。

僕は明らかにほっとしていた。
あまりにもそっ気ないメールだから、てっきり男かと心配したよ。
……僕、嫉妬深かったんだな。

「恋しとよ 君恋しとよ ゆかしとよ 逢はばや見ばや 見ばや見えばや……って和歌なんですけどね、公演中の私の気持ちそのものでした。」
静稀がそう言って、僕の腕にしがみついてくる。

僕は、静稀から携帯を取り上げて机の上に置き、静稀を膝の上に座らせた。
「咲ちゃんは、ロマンチストだね。でも、梁塵秘抄は初心者にもお勧めだよ。静稀、一緒に読もうか。会えない夜に慰めになる和歌がいっぱいある本だよ。」

「はい!」
静稀が満面の笑顔で返事をして、僕の首に腕を回す。

「恋しくて、恋しくて、セルジュに逢いたくてしょうがなかったの。一緒に過ごせなくても、一目セルジュを見たかったし、私のことも見ていてほしかったの。」
恋しとよ、の気持ちを自分の言葉でつぶやく静稀に、普段は見えない熱情を感じ、僕の体にも火が点る。

その夜、僕らは、とても情熱的に愛し合った。
会えなかった時間を埋めようと、お互いを貪り合った。
体の相性もよかったのだろう……静稀は達することを覚え、何度も気を失った。
体も脳も溶けてしまいそうな快楽に、僕らは一晩中溺れた。
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