お帰り、僕のフェアリー
13時には、いつも通り、マサコさんが来てくれる。
マサコさんは、昨日も念入りに玄関ホールを磨き上げてくれたのに、今日もチェックに余念がない。
「来られましたよ」
マサコさんが静稀の到着に気づき、迎えに出てくれる。
程なく、静稀が部屋に入ってくる。
「わぁ」
僕ら3人を見て、静稀が小さく声を上げた。
「彩乃、こちらが、静稀。芸名は、榊高遠くん。」
「あの、はじめまして。小堀静稀と申します。」
「…え~、てことは、男役?てっきり娘役と思い込んでたわ。梅宮彩乃です。よろしく。」
「俺も!俺も紹介して~な。」
義人がしゃしゃり出てくる。
「静稀、義人。由未の兄。」
僕の簡潔過ぎる紹介に、慌てて静稀がフォローする。
「竹原義人さんですよね。先日はご観劇くださって、ありがとうございました。由未ちゃんにもお世話になってます。」
義人は、誰が見ても「爽やかな好青年」の笑顔を作って、静稀に歩み寄る。
「こちらこそ、ご招待していただき、恐縮です。舞台の高遠くんも美しくて素敵でしたが、化粧を落とした静稀さんは格別ですね。可憐で。」
そう言いながら、図々しく、静稀と握手する義人。
静稀は、照れながら、困った顔で僕を見る。
「義人、それ以上静稀に触るなよ。」
義人は、おどけて肩をすくめて、静稀にウインクした。
さすがに、静稀の愛想笑いが引きつった。
「静稀ちゃん、いかにも女子校育ちっぽいねえ。反応がいちいち、かわいいわ。なあ、彩乃?」
彩乃には、やはり女子校育ちで今も女子大に通う彼女がいることをふまえて、義人がからかう。
彩乃は、義人を無視して、静稀に向き合う。
「早速今日から始めますか?」
「はいっ!お願いします!あ、あの、着替えてきていいですか?」
静稀が、シャキッと背筋を伸ばして、答える。
彩乃がうなずくのを確認してから、僕は静稀を隣室へ案内する。
静稀が消えてから、彩乃がぼそりと物騒なことを言い出した。
「舞台映えしそうないい子やんか。歌劇団辞めたら本格的にうちに引き抜くわ。」
まだまだ辞めませんから!
程なく、静稀が男物の着流しに扇を持って現れる。
…静稀は男役だから当たり前なのだが、僕にはとても痛ましく感じた。
「白拍子の色気だな。」
義人が目を細めてそう言った。
やらしい目で見るな!
静稀は、その場に膝をつき、扇を自分の前に置いて、両手を床について頭を下げた。
玄関なのに!土下座!
……茶室でも畳でもない、普通に靴で歩いてる玄関なのに!
「お稽古、よろしくお願いします。」
それに対して、彩乃もまた、玄関なのに!土下座!
「よろしくお願いします。」
オロオロしてる僕に、義人が耳打ちする。
「茶室の座礼を、日舞でも謡いでも、畳以外のとこでも平気でやるもんなんや。あれぐらい普通やから。」
あ…そうなんだ。
「……静稀ちゃんのことになると、セルジュ、過保護やな。」
義人がニヤニヤ笑ってそうからかった。
マサコさんは、昨日も念入りに玄関ホールを磨き上げてくれたのに、今日もチェックに余念がない。
「来られましたよ」
マサコさんが静稀の到着に気づき、迎えに出てくれる。
程なく、静稀が部屋に入ってくる。
「わぁ」
僕ら3人を見て、静稀が小さく声を上げた。
「彩乃、こちらが、静稀。芸名は、榊高遠くん。」
「あの、はじめまして。小堀静稀と申します。」
「…え~、てことは、男役?てっきり娘役と思い込んでたわ。梅宮彩乃です。よろしく。」
「俺も!俺も紹介して~な。」
義人がしゃしゃり出てくる。
「静稀、義人。由未の兄。」
僕の簡潔過ぎる紹介に、慌てて静稀がフォローする。
「竹原義人さんですよね。先日はご観劇くださって、ありがとうございました。由未ちゃんにもお世話になってます。」
義人は、誰が見ても「爽やかな好青年」の笑顔を作って、静稀に歩み寄る。
「こちらこそ、ご招待していただき、恐縮です。舞台の高遠くんも美しくて素敵でしたが、化粧を落とした静稀さんは格別ですね。可憐で。」
そう言いながら、図々しく、静稀と握手する義人。
静稀は、照れながら、困った顔で僕を見る。
「義人、それ以上静稀に触るなよ。」
義人は、おどけて肩をすくめて、静稀にウインクした。
さすがに、静稀の愛想笑いが引きつった。
「静稀ちゃん、いかにも女子校育ちっぽいねえ。反応がいちいち、かわいいわ。なあ、彩乃?」
彩乃には、やはり女子校育ちで今も女子大に通う彼女がいることをふまえて、義人がからかう。
彩乃は、義人を無視して、静稀に向き合う。
「早速今日から始めますか?」
「はいっ!お願いします!あ、あの、着替えてきていいですか?」
静稀が、シャキッと背筋を伸ばして、答える。
彩乃がうなずくのを確認してから、僕は静稀を隣室へ案内する。
静稀が消えてから、彩乃がぼそりと物騒なことを言い出した。
「舞台映えしそうないい子やんか。歌劇団辞めたら本格的にうちに引き抜くわ。」
まだまだ辞めませんから!
程なく、静稀が男物の着流しに扇を持って現れる。
…静稀は男役だから当たり前なのだが、僕にはとても痛ましく感じた。
「白拍子の色気だな。」
義人が目を細めてそう言った。
やらしい目で見るな!
静稀は、その場に膝をつき、扇を自分の前に置いて、両手を床について頭を下げた。
玄関なのに!土下座!
……茶室でも畳でもない、普通に靴で歩いてる玄関なのに!
「お稽古、よろしくお願いします。」
それに対して、彩乃もまた、玄関なのに!土下座!
「よろしくお願いします。」
オロオロしてる僕に、義人が耳打ちする。
「茶室の座礼を、日舞でも謡いでも、畳以外のとこでも平気でやるもんなんや。あれぐらい普通やから。」
あ…そうなんだ。
「……静稀ちゃんのことになると、セルジュ、過保護やな。」
義人がニヤニヤ笑ってそうからかった。