お帰り、僕のフェアリー
翌日、彩乃は静稀に「松の緑」という短い舞踊を振り付けた。

なるほど、彩乃と見比べると、その差は歴然。
彩乃は、どんなに動いても、上半身がぶれないのだ。

そして、意外と覚えるのが遅い静稀。
どうやら、体で覚えるのは苦手なようだ。
小さい頃からバレエをやってる割に、不器用というか。
そんなところも、かわいいけど。


17時にお稽古を終えると、彩乃はそそくさと帰ってった。
どうやらおデートらしい。

「明子(あきらけいこ)によろしく。」
と、マサコさんお手製のクッキーを托して見送った。

「アキラケイコ、ってニックネームですか?珍しい名前ですね。」
彩乃が見えなくなってから、静稀が僕にすり寄ってきてそう聞いた。

「本当は、あきこちゃん、なんだけどね。藤原良房の娘で美貌の皇太后と同じ漢字だったから、ついそう呼んだのが癖になってるのかな。」
「……何か妬けちゃうな。」
「おやおや。静稀も、嫉妬するんだ。おいで。」

僕は静稀をぎゅっと抱きしめる。

「やっと2人きりになれたね。」
「うん。」
「昨日も、今日も、ずっと静稀に触れたかった。」
「うん。私も。」

……由未の帰宅まで、1時半ぐらい、か。
慌ただしい性交は、好きじゃない。
ないけど……。

着流しの静稀は、義人の言う通り、妙に色っぽくて……。

「行こう。」
心を決めて、僕は静稀を抱き上げる。

「きゃっ!」
静稀の胸元と裾が割れて、白い素肌がむき出しになる。

「やらしい子だ。お仕置き、だね。」
言った僕も、言われた静稀も、小さくぶるっと震える。
……いずれはソフトSM的な快楽も楽しめるかもしれない。

まあ、でも、今は優しく激しく、愛してあげたい。
僕はその一心で、寝室に飛び込んだ。

静稀をそっとベッドに下ろして、組み敷く。
僕たちは、嵐のように、めくるめく快楽に酔いしれた。


「アルバム、見たいな」
僕の腕の中で、余韻に浸りながら、静稀がおねだりする。

「高校の卒業アルバムぐらいしかないけど。」

「それがいい!」

……。

僕はため息をつきながら、ベッドから起き上がり、クローゼットを開ける。

「うわっ!すごい!」
色とりどりの洋服に声をあげる静稀。

「シーズンごとに伯父が送ってくるから、どうしてもこうなってしまうんだよ。」
そう言いつつ、卒業アルバムを取り出し、静稀に手渡す。

ついでに、シルクの、レースとフリルひらひらの白いブラウスを取り出し、裸の静稀に羽織らせる。
「似合うよ。」
静稀はシルクの肌触りに頬を寄せて、ご満悦な様子。

卒アルをぱらぱらめくって、僕を探す。
< 36 / 147 >

この作品をシェア

pagetop