お帰り、僕のフェアリー
芝居は、とてもおもしろかった。
三人吉三を、うまくアレンジしてあったが、娘役の出番の少なさに驚いた。
てっきり、お嬢吉三は、娘役の子が演じると思っていたが。
おきゃんで、はすっぱなお嬢吉三。
いつか榊高遠くんもあんな役を演じるのだろうか。
お坊や和尚なんぞは、想像もつかないが。

ちなみに、今回の榊高遠くんは、幕開けの若衆の舞踊と、エキストラのような町人と、捕り手。
ショーでは、やはりロケット(ラインダンス)がメインで、あとは、その他大勢のバックダンサーというところ。
どこにいても、きらきら輝きを放つ榊高遠くん。

観劇していて、静稀に着せたいドレスを思いついた。
お嬢吉三のような艶やかな友禅をシンプルなドレスに仕立てよう。
……その場合、生地は、京都か金沢で僕が選んで買って送ったほうがいいのかな。

終演後、彩乃が盛大に天を仰いだ。
「化けるもんやな。野菊のような女の子が、しっかり若衆やったわ。あの子は、大化けするぞ。」

やっぱり、彩乃もそう感じたか。

「やば~い!静稀さん、美しすぎる!私、惚れそうやって。」
ひとりでジタバタ騒いでる由未。

「(ろくでもない)サッカー選手に熱上げてるよりいいと思うけど。」
つい本音を漏らして、由未に睨まれた。

「セルジユ、あの子の退団って、下手すると20年近くかからへん?舞踊家としてはちょうどええ落ち着きも出るし俺はええけど、お前は?そこまで待てるんか?」
彩乃がにそう聞かれて、俺は心底驚いた。

20年?

「男役10年っていうから、10年ぐらいかと思ってたんだけど。」

「あほな。男役として形になるまで10年かかる、ってだけで、主役級はそこからやん。今のトップは38才までいるで。」

……静稀と20年も年齢差のある生徒さんがトップスター?
僕は無意識に生唾を飲み込んだ。

夜、静稀と電話で話してる時、僕はつい聞いてしまった。
「静稀は……トップスターを目指してるんだよね?」

『え~~~~!それは無理ですよ。私、背が低いし。』
謙遜じゃなく、本気でそう言う静稀……そういえば、前にも背が低いって、言ってたな。

「でもせっかくがんばってるのに?」
『そりゃがんばりますよ。私、歌劇団大好きで入ったんだもん。とりあえず今の目標は、6年目に切られないこと!』

歌劇団に入団した生徒は、まずは親会社の社員となる。
そして入団6年目に一旦退職となり、個別にタレント契約を結ぶことになるらしい。

「静稀なら大丈夫だよ。がんばってね。」

……結局、肝心なことは何も言えず、僕はいつものように励ますことしかできなかった。
情けないな。
静稀に迷いはないのに。
僕は……。

こんなことで、本当に静稀を支えてあげられるんだろうか。
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