お帰り、僕のフェアリー
新人公演には、彩乃と2人で行った。
静稀は、舞のシーンで主役のすぐ後ろに配置され、正直なところ、主役を食うオーラを放った。
いくつかの台詞もあったのだが、贔屓目抜きにしても、光っていた。
と、思う。
終演後、彩乃は腕を組んで、難しい顔をしていた。
「どうした?榊高遠くん、だめなところあった?」
「いや、榊高遠はよかってんけどな。主人公と二番手格が、稽古不足過ぎて。何も出来てないのに、どや顔で。見てられんかった。」
ああ、それで!
「どおりで、すぐ後ろの高遠くんが上手く見えたわけだ。」
彩乃は大きくうなずく。
「誰が見ても、あの主役と二番手格はあかんやろ。なのに抜擢されるっていう状況が不健全というか。」
「カネコネ、ってやつや。商業劇団やからな。大人の事情としがらみだらけなんや。」
後ろから、急に話に寄ってきた男は、義人。
「来てたのか。」
「お~。見たで。高遠くん。よかったなあ。」
これからジェンヌとデートなのだろう、めかしこんだ義人は上機嫌そうだ。
「カネコネ、ねえ。芸術にパトロンは必要不可欠やと思うけど、資質も努力もないもんに大金を出すんか。酔狂やな。」
吐き捨てるように、彩乃がつぶやく。
「歌劇団もモンスターペアレンツだらけやからなあ。親がスポンサーを見つけて来たり、必死や。」
「レベルが低下しても?」
納得いかない気がして、僕も口を挟む。
「レベルが高くてもチケットが売れなきゃ続かへんからなあ。経営者的には、逆はなんぼでもいいんやろ。」
義人は肩をすくめてから、片手を上げる。
「ほな行くわ。またな。静稀ちゃんによろしく。」
義人の背中を見送り、彩乃がため息をつく。
「夢の世界も世知辛いもんやな。高遠くんが傷つかへんことを祈るわ。」
僕は、彩乃の言葉に心から同意した。
新人公演が終わると、静稀は再び彩乃にお稽古を付けてもらいに通ってきた。
真面目な静稀には、まだ納得いかない部分が多い、のだそうだ。
彩乃もまた、思っていた以上に熱心な弟子に真剣に向き合ってくれた。
千秋楽の翌々日、僕と静稀は京都へ赴いた。
東山の、かつては出逢い茶屋だったという、いかにも淫靡な料理旅館に宿泊した。
一週間後には、雪組東京公演のお稽古が始まる。
短い休みの間に、お互いを刻みつけるように、僕らはひとときも惜しんで愛し合った。
「散歩、しよう。」
夜が白んできた頃、静稀がボソッと言い出した。
「2人で?京都にも歌劇団のファンはいるよ?まずくない?」
「今なら、大丈夫かな、って。こんな時間、普通は寝てるでしょ?」
「たしかに。新聞配達と牛乳配達ぐらいかな?」
電車もバスも、まだ始発すら動いてないだろう。
「セルジユと一緒に、歩きたいな。手をつないで。」
僕が、静稀のかわいいおねだりを拒否するわけもなく。
すぐに僕らは身支度を整えて、宿を抜け出した。
静稀は、舞のシーンで主役のすぐ後ろに配置され、正直なところ、主役を食うオーラを放った。
いくつかの台詞もあったのだが、贔屓目抜きにしても、光っていた。
と、思う。
終演後、彩乃は腕を組んで、難しい顔をしていた。
「どうした?榊高遠くん、だめなところあった?」
「いや、榊高遠はよかってんけどな。主人公と二番手格が、稽古不足過ぎて。何も出来てないのに、どや顔で。見てられんかった。」
ああ、それで!
「どおりで、すぐ後ろの高遠くんが上手く見えたわけだ。」
彩乃は大きくうなずく。
「誰が見ても、あの主役と二番手格はあかんやろ。なのに抜擢されるっていう状況が不健全というか。」
「カネコネ、ってやつや。商業劇団やからな。大人の事情としがらみだらけなんや。」
後ろから、急に話に寄ってきた男は、義人。
「来てたのか。」
「お~。見たで。高遠くん。よかったなあ。」
これからジェンヌとデートなのだろう、めかしこんだ義人は上機嫌そうだ。
「カネコネ、ねえ。芸術にパトロンは必要不可欠やと思うけど、資質も努力もないもんに大金を出すんか。酔狂やな。」
吐き捨てるように、彩乃がつぶやく。
「歌劇団もモンスターペアレンツだらけやからなあ。親がスポンサーを見つけて来たり、必死や。」
「レベルが低下しても?」
納得いかない気がして、僕も口を挟む。
「レベルが高くてもチケットが売れなきゃ続かへんからなあ。経営者的には、逆はなんぼでもいいんやろ。」
義人は肩をすくめてから、片手を上げる。
「ほな行くわ。またな。静稀ちゃんによろしく。」
義人の背中を見送り、彩乃がため息をつく。
「夢の世界も世知辛いもんやな。高遠くんが傷つかへんことを祈るわ。」
僕は、彩乃の言葉に心から同意した。
新人公演が終わると、静稀は再び彩乃にお稽古を付けてもらいに通ってきた。
真面目な静稀には、まだ納得いかない部分が多い、のだそうだ。
彩乃もまた、思っていた以上に熱心な弟子に真剣に向き合ってくれた。
千秋楽の翌々日、僕と静稀は京都へ赴いた。
東山の、かつては出逢い茶屋だったという、いかにも淫靡な料理旅館に宿泊した。
一週間後には、雪組東京公演のお稽古が始まる。
短い休みの間に、お互いを刻みつけるように、僕らはひとときも惜しんで愛し合った。
「散歩、しよう。」
夜が白んできた頃、静稀がボソッと言い出した。
「2人で?京都にも歌劇団のファンはいるよ?まずくない?」
「今なら、大丈夫かな、って。こんな時間、普通は寝てるでしょ?」
「たしかに。新聞配達と牛乳配達ぐらいかな?」
電車もバスも、まだ始発すら動いてないだろう。
「セルジユと一緒に、歩きたいな。手をつないで。」
僕が、静稀のかわいいおねだりを拒否するわけもなく。
すぐに僕らは身支度を整えて、宿を抜け出した。