お帰り、僕のフェアリー
日中はまだまだ真夏のように暑い9月初頭だが、さすがに日の出前は涼しくすらある。

「太陽が出る前に帰ってくるから、日焼け止めもいらないよね。」
静稀は、僕の腕にまとわりついてはしゃいでいる。

僕らが出逢って、約5ヶ月。
2人きりで外を歩いたことがなかったことに、今更ながら驚く。

次のまとまった休みには、人目の気にならない海外に行こうか。
観光地以外なら、日本人に会わなくてすむだろう。

ただ共に歩くだけで、こんなにもうれしそうな静稀を見て、僕は20年待てるような気がしてきた。

一旦、静稀を僕の腕から引き離し、改めて手をつなぎつつ腕をも絡めるように組む。
静稀の笑顔がはじける。

こうして、2人で、生きていこう。
会えない日々も、お互いを想い合おう。
また2人が微笑み合える、その瞬間を信じて。

結局、僕らは朝6時過ぎに宿に帰り着いた。
再び、抱き合って眠り、正午を過ぎてからの起床となってしまった。


早朝のお散歩に味をしめた静稀は、翌朝はまだ暗いうちから起き出した。
玄関戸をそっと開けたつもりが、宿のご亭主に気づかれてしまった。
「クワガタ虫でも捕りに行かはるんですか?」
僕らは、曖昧に笑うしかなかった。 

昨日は清水寺の方へ歩いたのだが、今日は逆に上がって三条へ出て、鴨川へと向かった。
ここには、意外と人がいた。
素人ランナーや、犬の散歩をさせている人、たぶん終電を逃した始発待ちの学生達。
「ここはまずいかもね。四条まで歩くつもりだったけど、川端を歩こうか。」

「え~。ここがいい。水辺、気持ちいいもん。大丈夫よ。まだ早いし……あ……」
静稀が硬直する。

視線の先には、華やかな4人。
茶髪主流の現代日本でも、ここまで潔い金髪は少ないだろう!というぐらい明るく色を抜いた髪、白い肌、細い華奢な身体。
……静稀の先輩に当たる、歌劇団のジェンヌ達だった。

「あら!」
小柄なかわいらしい娘役っぽい先輩が、静稀に気づく。

静稀は慌てて僕から離れて、頭を下げて挨拶した。

「しーちゃん!あなたも終電乗り遅れたの?おっとりしてるもんね。」
しーちゃんは、静稀の愛称のひとつらしい。

「はるちゃん、それはボケ過ぎ(笑)。彼氏と朝帰りでしょ。」
こちらは誰の目から見ても美人の、男役さん。

「れいさん。あの……。」
静稀が、美人さんに何か言おうとしてる。

え~と、最初に話しかけてきた娘役さんが、はるちゃん。
美人の男役さんが、れいさん。
混乱しないように、僕は整理する。

「ん?咎めてないわよ。いい恋をなさい。芸の肥やし、とは言わないけど、恋があなたをあなたを輝かせるわ。」
おどおどしてる静稀に、れいさんがそう言ってウインクした。

かっこいい。
れいさんは美人なだけじゃなくて、中身も素敵な女性のようだ。
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