お帰り、僕のフェアリー
「合コンで朝帰りの私たちが言うことじゃないけど、ね。」
はるちゃんが、苦笑して付け加える。

ジェンヌも合コンで朝帰りするのか……。

「ふふ。今日はね、オトモダチの京大生にお願いして、院生やオーバードクターを連れてきてもらったんだけどね……おもしろくなかったわ。」
肩をすくめて、僕に微笑みかける、れいさん。

……それで僕にはピンときた。
れいさんは、義人のオトモダチの1人じゃないか。

「さ、そろそろ始発が出るから帰るわ。しーちゃん、来週からまたよろしくね。セルジュ、しーちゃんをよろしくね。」
名乗ってないのに僕にそう呼びかける、れいさん。

やっぱり!

「ありがとうございます。どうか、榊高遠を、よろしくお願いします。」
れいさんは、ひらひらと手を振って、立ち去った。
はるちゃんも、会釈してれいさんを追いかける。

一行を見送ってから、静稀に促す。
「さ、僕らも帰ろうか。」

静稀はまだ、かたまっていた。
「静稀?」

「あ……はい。帰ります。はい。」
静稀がぎくしゃくと歩き出す。
どうやら、緊張しているようだ。

そういえば、歌劇団では下級生は上級生に絶対服従の伝統だっけ。

「れいさんって、研いくつ?」
「え~と、研5だと思います。はるさんも。お2人とも雪組なので、今、お稽古場でご一緒させていただいてるんですが……び、びっくりした……」
静稀は、今更ながら、半泣きになっている。
どうやら、お稽古場でも挨拶するだけで、今まで話したこともない、雲の上の存在らしい。

「あの、でも、れいさん、セルジュのこと知ってた?」
……緊張してても、そこにはちゃんと気づいてたんだな。

「うん。たぶん、れいさんの京大生のオトモダチっていうのは、義人のことじゃないかと思う。」
「ええっ!?義人さん、京大生なんですか?見えない!あ、いえ、見えないことはないけど、似合わない……いえ、似合うんですけど、なんていうか……。」
静稀が言葉を選べず言いよどんでいるので、僕が補足する。

「見るからに、頭のいい好青年だけど、女性に軽すぎるんだよな、義人は。」

静稀は、うんうんと大きくうなずいた。

「彩乃先生は阪大の工学部っておっしゃってました。セルジュは神大文学部。3人とも国立大でもバラバラのところを選んだんですね。」

「まあ、男3人で進路までつるむのもおかしいからね。義人はネームバリューを選び、彩乃は師事したい教授を選び、僕は家から近いっていうそれだけなんだけどね。」
僕が一番やる気のない理由なので、気恥ずかしい。

僕の気持ちが伝わったのか、静稀はふんわりと僕の腕を取り、頬をすり寄せた。
「セルジュ、大好き。さっき、れいさんに、挨拶してくれて、ありがとう。」

僕も、大好きだよ。

れいさんが、静稀に目をかけてくれるといいな。

僕は単純にそう願うことしかできなかった。
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