お帰り、僕のフェアリー
「ただし、チケット代は僕が払うよ。いいね?」

静稀は、ちょっと考えてから、
「わかりました。でも今まで通り、1回はご招待させてください。あと、新人公演も。それ以外は、お願いします。」
と、頭を下げた。

「それから、毎回静稀の一番いい生徒席じゃなくていいからね。ご家族を優先して。僕はB席でもかまわないから。」
どうせ双眼鏡は静稀しか追わないんだから。

「え~。B席じゃ、私からセルジュが見えないから、嫌~。逆にSS席とか取ってもらっちゃうもん!」

「……ほどほどにね。」
こうしていつものように、僕は静稀を甘やかす。

れいさん、すみません。
こんな静稀がかわいくてかわいくてしょうがないんです。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

……僕は、同じホテルのどこかの部屋にいるであろうれいさんに心の中で詫びた。

「何か飲むかい?」
バーカウンターにも冷蔵庫にも、のどを潤すには充分な瓶が並んでいるが。
ルームサービスのほうがいいかな、と、静稀にメニュー表を開いて見せる。

静稀は変な顔になって、首を振った。
「どうしたの?未成年向けのソフトドリンクもあるよ?」

「……やっと会えたのに、まだキスしてない。」
上目づかいで僕をじと~っと見る静稀。

ついさっき、僕も同じ想いを飲み込んだんだけどね。
苦笑して、メニューを取り上げ、静稀を抱き寄せる。

「まったく、わがままなお姫さまだよ。」
そっと静稀の頬に口づける。

「はい。したよ。」

静稀は、きょとんとしてる。
「それだけ?」

不安そうに尋ねる静稀。

今度は、額に口づける。
「はい。これでいい?」

静稀は、む~っとむくれて
「足りないもん。」
と、僕の両腕にしがみついて、つま先立ちになる。

静稀のほうから口づけようとしてるらしい。

静稀が迫ってくる……無駄に気合いが入っているせいで、静稀の鼻の穴が膨らんだ。

それをみると、僕はたまらず、笑ってしまった。

「ひどい……。」
と、静稀が泣きべそをかく。

「ごめんごめん。」
静稀を傷つけたくないので、鼻の穴云々は内緒。

「おいで。」
静稀の手を取り、ソファにいざなう。

「会いたかったよ。」
僕の膝の上に静稀を座らせて、折れそうに細い体に両手を這わせる。

「ん……くすぐったいよ……」
鼻にかかった声を出す静稀。

「やらしい声。」
僕のいじわるに恥ずかしがりながらも悶える静稀の首筋に、今度は舌を這わせる。

「や、だ。もう、ちゃんと、キスしてよぉ。」
静稀の瞳がうるうると揺れている。

かわいい。
僕は、静稀の頬に手を添えて、引き寄せる。
目を閉じた静稀の顔を少し傾けて、愛くるしい耳に舌を入れる。

「ひっ!」
やっと唇に口づけしてもらえると思っていた静稀は、首をすくめて小さく叫んだ。
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