お帰り、僕のフェアリー
「じゃ、その先輩は、静稀と僕の関係を知らないけれども、どこかで僕を見知って、静稀にお願いしてるの?それとも、僕たちのことを知ってて、そんな図々しいことを言ってるの?」

……一応そう尋ねながらも、ふつふつと怒りがこみあげてくる。
2人の仲を知ってるから、静稀に言ってるんだよな。

まあ、静稀の公演を2公演続けて全日程観劇したし、大阪公演期間の後半は静稀と一緒に帰ったし、もっと言えば、去年京都でれいさん達と遭遇してる。

大っぴらに付き合ってるつもりはないが、秘密の恋というわけでもない。
わかりやすい静稀を見てりゃ、観客席に恋人がいることは一目瞭然だろう。

そう言えば、僕はいろんな役者さんから目線をもらっていたが、あれは僕がカッコイイからじゃなくて、静稀の相手と知って、見てたのか。
ハーフで美しい顔立ちをして生まれ育った僕は、人に見られることに慣れ過ぎていて、そういう注目のされかたをしているとは、まったく想像だにしなかった。

「静稀。大体わかったから、ちゃんと質問に真面目に答えて。」
僕にしがみついて離れない静稀を一旦引き剥がし、静稀の目をのぞき込んで尋ねた。
「静稀は、僕と別れたくないよね?」

静稀は、こくこくっ!と、大きく早く頭を縦に振る。

「僕を、他の誰かにあげたいわけじゃないよね?」

静稀の目から、どっと涙があふれる。
「ぜ、ぜったい、だめ~。いや~。セルジュは、私の~、私だけ~の~。」
そこまで言って、ぐっと詰まり、またうつむいて、ボロボロと涙をこぼす静稀。

「わかったから。泣かなくていいから。」

静稀の顔を両手で挟み、顔を上げさせて、唇に口づける。

「僕も、静稀以外は、いらない。だから、大丈夫。合コンはしない。静稀が断りづらいなら、僕が直接断る。」
そう言って、もう一度、静稀の唇に口づける。
「馬鹿だね、静稀。こんなしょうもないことで、ずっと悩んでたのかい?すぐに僕に言えばよかったのに。」

「だって……」

静稀が尖らせた唇を、僕は軽く噛む。

「きゃっ!ひどい!」

「お仕置き。静稀が悩んでるから、僕も苦しかった。」
「……そうなの?」
静稀が不思議そうに上目づかいで僕を見る。

これだから、このお嬢さんは。
またしても、僕は苦笑する。

静稀は毎日が忙しくて、自分のことでいっぱいいっぱいすぎて、僕の気持ちに鈍い。
僕だけじゃなく、自分以外の全ての人に対してそうなんだろうけど。
ま、いいけどね。

「覚えておいて。静稀がつらいと僕もつらい。静稀が悲しいと僕も悲しい。だから、一人で悩まないで。今回みたいに物理的に離れてても、同じ気持ちだから。」
僕は、静稀を膝に座り直させて、深く口づけた。

「……はい。」
静稀は、やっと微笑んだ。

「うん。ずっとそうして笑っていてほしい。やっと、静稀の笑顔を見られて、ほっとしたよ。」

実際、僕は、ぐったりと力が抜けるのを感じた。
静稀の胸に顔をうずめて、目を閉じる。

「おかえり。」
改めてそう言うと、静稀も僕の意図を理解したようだ。

「ただいま。」
と、花のような笑顔を見せてくれた。
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