お帰り、僕のフェアリー
12月半ばに、小ホール公演が開幕した。
今回は、第二次世界大戦下のスイスとオーストリアを舞台にしたシリアスな芝居だ。

榊高遠くんは、なんと、ナチスの将校!!!
キャラじゃないだろうと心配していたのだが、さすがは榊高遠くん。
男の僕が見ても、かっこいい将校になっていた。
榊高遠くん演じるハインリヒは、ヒトラー暗殺計画に加わり、ゲシュタポに射殺されてしまうのだが、その悲劇性がまた印象的な美味しい役だ。

一幕でゾクゾクするほどのSっぷりを魅せる榊高遠君くん……またファンが増えそうだ。
二幕では、迷いと苦悩のソロを歌い上げていた。

今回、思わず僕はハインリヒの写真を購入してしまった。
驚くほどに素晴らしい美青年ぶりだった。

2日めから、僕の席が静稀の生徒席となる。
フィナーレで榊高遠くんは僕にウィンクをしてきた。
周辺から悲鳴が上がる。
……静稀が男役らしく気障れるようになってきたこと、僕にはものすごく衝撃だった。

そして、ウィンクなんて一瞬の出来事にちゃんと気づくぐらいしっかり榊高遠くんを見てくれているファンがこんなにもいたなんて!

男役・榊高遠は、確かに成長していた。

でも、この夜、ニコニコとわが家を訪れた静稀は、やはりいつものかわいい静稀だった。
「おかえり。」
この顔がああなるんだなあ、と、ついしげしげと改めて見つめてしまう。

「ただいま~。今日、演出の先生に褒められたの~。セルジュ~。うれし~~~。ご褒美~。」
静稀が僕に抱きついて、僕を見上げて、口づけをねだる。

僕は静稀の頭を撫でて、頬に口づける。
「うん、僕も驚いたよ。静稀もドSになれるんだねえ。」

「えへへへへ~。」
静稀はへらへら笑って、僕の首にしがみつき、僕の頭を下げさせて自ら口づけてきた。

小悪魔のように微笑み、静稀は胸をはる。
「あれねえ、セルジュの真似っこなの。よく考えたら、セルジュって男役のお手本みたいなんだもん。綺麗で、かっこよくて、優しくて、情熱的で、クールで、スマートで、気障で、意地悪で、Hで。」

……褒めてないよね、最後のほう。

上機嫌な静稀は、珍しく、調子にのってしゃべり続けた。
「はいは~い!榊高遠、おねだりします。軍服、作ってく~ださい。今回のハインリヒと~、旧日本軍の海軍士官学校の夏服と~、シャア・アズナブル!」

「やだよ。僕は静稀のドレスしか関わらないから。榊高遠くんの服は、伯父に任せる。」
どうせねだるなら、フリルやリボンやレースのうるわしい宮廷服にしてくれ。
よりによって、武骨な軍服なんて。

……ところで、シャア・アズナブルって、なんだ?
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