お帰り、僕のフェアリー
千秋楽の翌々日、静稀は実家に帰省した。
クリスマスと年越しは、ご家族とご一緒がよかろう。
僕は、静稀が元気になって帰ってきてくれることを願って、送り出した。

年末年始は、マサコさんにもお休みしていただいている。
毎年恒例のことなので、淋しさは感じない。
…おせっかいな親友達が必ず幾日かは賑やかしに来てくれるし、ね。

今年は、彩乃は、冬季休暇期間も隔日で大学に行き、課題を進めなければいけないらしい。
25日の朝、明子(あきらけいこ)と一緒に来て、クリスマス気分で昼間っから飲んだ。
女子校育ちの明子は、歌劇団に憧れたこともあるらしく、静稀に会いたがった。
次の大劇場公演が始まったら、行こうか。
明子も一緒なら、帰りにどこかで食事してもかまわなかろう。
普段はできない静稀との外食、僕はとても楽しみに感じた。

翌日は、義人がやってきた。
義人は、夏頃から、ボランティアに通っていて忙しかったらしい。
聞けば、最初はいい仲になったオトモダチに付き合って、孤児院を訪問したそうだ。
でもそこで、ほっとけない女の子に出会った、って……ちょっと待て!

女の子?
孤児?
お前、守備範囲広すぎ!
てか、犯罪じゃないのか!

驚く僕に義人は、さらりと言った。
「俺が21才、彼女は12才。光源氏が若紫を見つけたんよりマシやろ。近いうちにうちに引き取ることにしたわ。また連れてくるし仲良くしたって。」

若紫って。
こいつ、マジか!
え~と、光源氏が若紫に手を出したのって、いくつの時だったっけ?
僕は義人という男がまだまだわかってなかったことに、今更ながら驚いた。 

そんな風に、年が暮れていく。
と、思ってたら!
近くの寺院から除夜の鐘の音が響いてくる中、玄関チャイムが鳴った。

こんな時間に?

訝しくドアを開けると、大荷物の静稀が立っていた。
「来ちゃった。」

ドラマみたいだな、って、僕は、喜ぶより呆然としてしまった。
「ご……ご家族には、なんて……?」

こんな大晦日の、それも真夜中に。
僕が親なら、泣くぞ。
風邪をひいては大変なので、とにかく中へ入れて、暖炉のそばへいざなう。

「ちゃんと、ご家族に了承を得てきたんだよね?」
紅茶を手渡しながら、そうたずねると、静稀は頬をふくらます。

「もう!そればっかり!黙って出てきたりしませんよ!」
「何て言って来たの?」

静稀は、上目づかいに僕を見る。
「……あの、父や祖父にはとても何も言えないので、母にだけ打ち明けてお願いしてきました。」

……僕は、天を見上げてため息をついた。
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