お帰り、僕のフェアリー
静稀は嘘がつけない子だ。
この場合、黙って出てきたのか、僕のことを話して飛び出してきたのか、と焦ったが。

「お母さまには僕のことを言ったんだね。じゃ、今度、お母さまがいらしたら紹介してね。ご挨拶させて。」

「え!でも、母はいつも祖父や親せきと一緒だから……また、今度……」
静稀の煮え切らない反応が気になったが、とりあえずはよしとしよう。

僕は、静稀を手招きして、僕の膝に座らせる。
「おかえり。会いたかったよ。」
そう言って、静稀の唇に口づける。

静稀は、やっと笑顔になった。
「ただいま。やっと笑ってくれた!私も!セルジュに会いたかったの。すごくつらかったの。一緒にいたかったの。ずっとそばにいさせてほしかったの。」
そう言って、笑顔のまま、ほろほろと涙をこぼす。

泣かなくていいのに……。

静稀を抱きしめて、背中をさする。
「そっか。ごめんね。僕には静稀がしんどそうに見えたから、養生してほしくて帰省を勧めたんだ。」

「うん。セルジュが心配してくれてることはわかってたから、言うこと聞いて、帰ったの。でも、泣き暮らしちゃった。せっかくのお休みなのに、セルジュと一緒にいられないなんて、って。」

それは……ご家族も心配だったろう。
静稀のお母さま、僕を恨んでないだろうか。

「困った子だねえ。しょうがないから、ずっと僕のそばにいなさい。お稽古が始まるまで、ずっとくっついてなさい。」

静稀は、ぱあっと顔を輝かせた。

僕は、静稀の綺麗な鼻に軽く噛みつく。
のけぞって身を引き、抗議の悲鳴を小さくあげる静稀。

「ほら、離れちゃダメでしょ。くっついてなさい。」
そう言って、再び静稀を抱き寄せて、今度は首筋に吸い付いた。

「な……にやってるの?」
なかなか唇を離さない僕に、じたばたし始める静稀。

「マーキング。」
僕はそう言って、また別の場所に吸い付く。

除夜の鐘は、108の煩悩を取り除くために聞くんだっけ。
そんなことを思い出しながら、僕は煩悩のままに、静稀の体に僕の跡を刻み続けた。

再び榊高遠くんになる日まで、静稀は僕だけのものだ、と言わんばかりに。


1月1日、僕らは、宅配の配達で目覚めた。
ローブを羽織って、慌てて玄関に出ると、大きな箱が3つ。
荷物を運び入れて、玄関ホールで荷解きする。

2つは、静稀の実家から。
……静稀の、振袖と帯他小物一式だった。
どれもこれも、最高級の品だ。
あまりちゃんと聞いてないけど、静稀のお家はやはり裕福なんだな。
僕は、静稀に知られないよう、こっそりと、静稀の実家の住所が記載された送り状をポケットに入れた。
< 56 / 147 >

この作品をシェア

pagetop