お帰り、僕のフェアリー
そして、あとの1つは、フランスから。
てっきり、僕のデザインしたドレスができたんだな~、と開封したら、変なものが出てきた。
赤と白……え?マント?マスク?

「あ~!シャアだ~!うわ~い!」

え?シャア?

裸にローブの静稀が僕の背中越しに、覗きこんではしゃぐ。
体中に赤い痣を付けて、何をはしゃいでるんだか。
僕は苦笑して、静稀を片手で抱き寄せる。

「僕には未だに『シャア』が何かわかってないのに、伯父にはちゃんと通じてるんだね。しかもコレが一番に届くなんてね。」
「うふうふ。これ、お茶会で着るんだ~。」

は?
静稀……いや、榊高遠くん……一体、きみはどこへ向かうんだ。
コスプレ、ってやつだよなあ。

「それより、こっち。振袖を着てみせてよ。まだ仕付け糸も取ってないよ。これ。」

静稀は、ちらりと一瞥しただけでそっぽを向く。
「この髪じゃ似合わないし。荷物になるからいらないって言ったのに。」
「こら!そんなこと言わないで。静稀のために誂えてくださったのに。ちゃんと着て、写真撮って、ご実家に送らないと。」
「え~。めんどくさいよ~。」
「でも、僕も静稀の振袖姿、見たいな。お願い。」

さすがに、僕のお願いは拒絶できない静稀。

「1回だけだよぉ。」
と、ふてくされる静稀が可愛くて、また1つ、僕は静稀の白い体に跡を付けた。



「あ、そうだ。次の源氏物語でね~、」
「え?源氏物語?」

僕は、義人の話かと、ドキッとした。

松の内も過ぎ、お正月ムードの薄れたある日、静稀がニコニコと話し出した。

「うん。源氏~。次の新トップお披露目公演。私ね~、夕霧するの~。」
「え!?」
それって、かなりの抜擢なんじゃないか?

「静稀……すごい?」
「えへへへへ~。すごいでしょ?また虐められちゃうけどね。」

「……。」

最後の言葉に、僕は言葉を失った。

今までも静稀はつらい想いをしてきただろうに、一切弱音を吐かなかった。
それが、つい、こぼしてしまうぐらい……日常的なんだろうか。

僕の心配そうな顔を見て、静稀が慌てて付け加える。
「あ、大丈夫よ。私、これでもだいぶ強くなったんだから。何言われても、平気。ちゃんとがんばる。」

けなげな静稀の言葉に、僕は胸が痛くなり、思わず静稀を抱きしめた。

静稀は僕の腕の中で、つぶやいた。
「セルジュさえいてくれたら、大丈夫。がんばれるから。そばにいてね。私を放さないでね。」

僕は、静稀を強く抱きしめることしかできなかった。


1月半ばから、静稀は、彩乃に舞を見てもらうことになった。
夕霧と言えば、柏木とともに舞う落蹲(納曽利)だろう……ということで、今回は雅楽の舞楽!
「専門じゃないけど、踊ったことあるから。」
と、後期試験と課題の提出を終えた彩乃は毎日来てくれた。
ついでに光源氏の青海波も教えてもらって、ご満悦な静稀。

何度か明子(あきらけいこ)も一緒にやってきて、盛大に静稀にミーハーしていった。
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