お帰り、僕のフェアリー
それは、突然のCatastrophe(カタストローフ)だった。
『ごめんなさい……ごめんなさい……もう、会えません……ごめんなさい……。』
新人公演の3日前、静稀は号泣しながらそう電話をしてきた。
僕には、その意味が全くわからなかった。
時間は、22時。
まだお稽古場にいるのだろう。
今日は、本役の上級生達に、通しで見てもらえる大事な日。
静稀は頭中将役もさまになり、演出の先生に褒めてもらっていたはずなのだが……。
「静稀?誰に何を言われたの?今、一人じゃないよね?この電話は君の本意じゃないね?」
ただただ泣いている静稀の声のほかに、悪意を含んだ複数人の嘲笑が聞こえる気がする。
『ごめんなさい……もう、会えません……ごめんなさい……』
何度も繰り返して、泣いている静稀。
僕の問いかけに答えようとしない静稀に、僕はすぐそばにいる誰か、間違いなく静稀を貶めようとしている上級生の存在を感じた。
もしかしたら僕の声も、筒抜けなのかもしれない。
下手なことが言えず、僕は言葉を選んで伝えた。
「静稀の気が済むようにすればいい。僕も勝手にやるから。」
静稀の嗚咽が一瞬止まる。
と、聞くに堪えない罵声が電話の向こうで響いている。
『もういいやろ!』
『あ!ごめんなさい!でも!あっ!』
静稀の携帯電話が、誰かに取り上げられたようだ。
バーン!
と、耳障りな音が鳴り、通話が切れた。
携帯電話を叩き付けられたか、へし折られたか、割られたか、とにかく最後は潰されてしまったのだろう。
僕は、静稀の番号にかけ直して確認する気にもなれなかった。
静稀の「ごめんなさい」が、頭にこびりついて離れない。
かわいそうに。
静稀は今夜、ちゃんと眠れるのだろうか。
明日、僕はいつも通り客席にいていいのだろうか。
……客観的な状況としては、僕は静稀に一方的に捨てられたわけだが……むしろ、僕は自分の非力が情けなかった。
結局、彼女を支えてあげられなかった。
翌日、僕はいつも通り、劇場へ足を運んだ。
楽屋口でチケットを受け取り、座席に座る。
チケットはよりによってSS席だった。
静稀からも、昨日静稀を追い詰めた上級生からも、よく見えるだろう座席。
僕は心中穏やかではなかったが、敢えて、柔らかい表情を貼りつかせて観劇した。
静稀は、僕を見て一度は眼を伏せたが、すぐに気持ちを取り戻し、最後までやりきった。
後方の冴えない上級生達が意味ありげに僕を見ていたのに気づいたが、完全に無視して、静稀だけを笑顔で見つめた。
……観劇でここまで疲れたのは初めてだ。
『ごめんなさい……ごめんなさい……もう、会えません……ごめんなさい……。』
新人公演の3日前、静稀は号泣しながらそう電話をしてきた。
僕には、その意味が全くわからなかった。
時間は、22時。
まだお稽古場にいるのだろう。
今日は、本役の上級生達に、通しで見てもらえる大事な日。
静稀は頭中将役もさまになり、演出の先生に褒めてもらっていたはずなのだが……。
「静稀?誰に何を言われたの?今、一人じゃないよね?この電話は君の本意じゃないね?」
ただただ泣いている静稀の声のほかに、悪意を含んだ複数人の嘲笑が聞こえる気がする。
『ごめんなさい……もう、会えません……ごめんなさい……』
何度も繰り返して、泣いている静稀。
僕の問いかけに答えようとしない静稀に、僕はすぐそばにいる誰か、間違いなく静稀を貶めようとしている上級生の存在を感じた。
もしかしたら僕の声も、筒抜けなのかもしれない。
下手なことが言えず、僕は言葉を選んで伝えた。
「静稀の気が済むようにすればいい。僕も勝手にやるから。」
静稀の嗚咽が一瞬止まる。
と、聞くに堪えない罵声が電話の向こうで響いている。
『もういいやろ!』
『あ!ごめんなさい!でも!あっ!』
静稀の携帯電話が、誰かに取り上げられたようだ。
バーン!
と、耳障りな音が鳴り、通話が切れた。
携帯電話を叩き付けられたか、へし折られたか、割られたか、とにかく最後は潰されてしまったのだろう。
僕は、静稀の番号にかけ直して確認する気にもなれなかった。
静稀の「ごめんなさい」が、頭にこびりついて離れない。
かわいそうに。
静稀は今夜、ちゃんと眠れるのだろうか。
明日、僕はいつも通り客席にいていいのだろうか。
……客観的な状況としては、僕は静稀に一方的に捨てられたわけだが……むしろ、僕は自分の非力が情けなかった。
結局、彼女を支えてあげられなかった。
翌日、僕はいつも通り、劇場へ足を運んだ。
楽屋口でチケットを受け取り、座席に座る。
チケットはよりによってSS席だった。
静稀からも、昨日静稀を追い詰めた上級生からも、よく見えるだろう座席。
僕は心中穏やかではなかったが、敢えて、柔らかい表情を貼りつかせて観劇した。
静稀は、僕を見て一度は眼を伏せたが、すぐに気持ちを取り戻し、最後までやりきった。
後方の冴えない上級生達が意味ありげに僕を見ていたのに気づいたが、完全に無視して、静稀だけを笑顔で見つめた。
……観劇でここまで疲れたのは初めてだ。