お帰り、僕のフェアリー
僕の体が冷え切った頃、静稀が踵を返す。
うつむいて、とぼとぼと歩いて帰る静稀。

その背中を見送り、僕の胸がズキズキと痛む。
こんな時間に、独りで出歩くなんて、危なすぎる。

すっかり酔いの醒めた僕だったが、また静稀という熱をぶり返したようだ。

「なあ。僕は、どうすればいいと思う?」
義人と彩乃を交互に見て、僕はついそう尋ねてしまった。

先に口を開いたのは、彩乃だった。
「諦めるな。」

義人もまた
「逃げるな。」
と言った。

……もう少し具体的な方策を相談したいのだが……。
僕は直球な親友どもに苦笑した。

それでも、僕は彼らから勇気をもらった。
諦めない。
逃げない。

……しかし、伯父に何て言えばいいんだ?
参ったな。


その夜は二人と夜明けまで飲み明かした。

彩乃は、春には明子(あきらけいこ)と結納を交わすらしい。
…彩乃の祖母が一日も早くひ孫の誕生を望んでいるのだ。
じゃ、お祝いはドレスかな。
僕は明子の笑顔を思い出す。
何のてらいもない笑顔。
一生、明子の笑顔が曇りませんように!

義人からは、由未の近況が聞けた。
由未もまた、噂の「恭兄さま」とうまくいってるらしい。
サッカー青年なんぞに振りまわされてる時はどうなることかと心配したが、よかった!本当によかった!

明け方それぞれのベッドに入った僕らは、翌日は午後2時頃ようやく目覚めた。
マサコさんが準備してくれた中華粥で胃腸を整えてから、義人と彩乃は帰ってった。

僕は、居間の窓際にクリスマスツリーのセットを出してきて、飾り付けた。
手伝ってくれたマサコさんが、電飾の位置にやたらこだわっているのに気づく。
部屋の中に向けてではなく、窓の外からキラキラ輝くようにしているのだ。

「もしかして、マサコさんも、気づいてたんですか?」

マサコさんは肩をすくめる。
「ぼっちゃんはやっと気づかれたんですね。」

「どうして……」
僕は、自覚してなかったけど、ずいぶんとまぬけなのかもしれない。

「この御屋敷の周囲には、5台もの監視カメラが取り付けてあります。」

監視カメラ!
僕は思ってもみなかったマサコさんの言葉に、開いた口がふさがらなかった。

「でも最初に気づかれたのは、彩乃さんですよ。こちらに来られた折に、敷地の角で静稀さんの残り香を感じられたそうです。」

え!?
彩乃、何も言ってなかったのに……。
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