お帰り、僕のフェアリー
「前に言ったことば、覚えてないの?静稀が怖がって怯えてる時は僕も怖いんだよ。たまらなく怖いんだよ。」

静稀の瞳に光が灯る。

「何度もセルジュを諦めようとしたの。でも1日も忘れられなかった。ずっと会いたくて苦しくて、毎日つらかった……。」

ほら、また、同じだ。
僕らは、いつだって同じ気持ちを抱いてたんだ……会えなかった時も。

「それも、同じだよ。ずっと静稀を求めてきた。」
僕は静稀から一旦離れて、その頬に左手で触れる。
「静稀にこうして触れられる日はもう来ないんじゃないか、って……苦しかった。」
そう言って、静稀の唇にそっと口づけた。

静稀も僕も、震えていた。
愛しくて、狂おしいくらい愛しくて。
繰り返し、唇を合わせる。
……もっと深くいきたいところだったけど……飛び降りた時に、自分の歯で口の中を傷つけてしまって、血の味が充満してるので遠慮してみた。

静稀は、僕が痛くならないように気遣いながら、横にならせてくれた。
そして、静稀自身も僕の腕の中にすっぽりおさまるように添い寝してきた。
僕の胸に顔をすりつけて、小動物のように甘える静稀。
二人で毛布にくるまってると、とても温かくて、僕は薬のせいか、眠くなる。

「セルジュ……すごい熱……やっぱり、すぐに病院に行ったほうが……」
「ん……」

静稀の声は聞こえるけど、僕は返事ができない。

「セルジュ?」
静稀が心配そうに声をかける。

うれしいな。
夢にまでみた静稀の声、静稀のぬくもり。
僕は、幸せな気分で意識を手放した。



次に目覚めた僕が、最初に見たのは、静稀のうれしそうな笑顔だった。

「しず……き。」

僕は静稀に手を伸ばす……つもりが、あれ?
利き手の右手が動かない。
やっぱり折れてたのかな。
右がダメなら左手がある。

点滴されて不自由だが、僕は無造作に手を伸ばして、静稀の頬に触れた。
「よかった。もう、どこにも行かないで。僕のそばにいて。」

静稀は、うんうん、と何度もうなずいてくれた。

僕はそれを見て、また安心して目を閉じる。
眠りに落ちていく。

「……こいつ、笑っとるわ。」
「寝ろ寝ろ。」

薄れていく意識が、親友どもの声を認知する。
来てたのか。
僕は言いようのない充足感に満たされて、眠った。


いたたたた……。
痛みが僕を揺り起こした。

ここは……。
白い天井、レール、カーテン……ぐるりと見回す。

あ、いた。

静稀が、僕の足元の椅子で寝てた。
すっかりやつれて大人びた静稀。
彼女の心にできてしまった深い闇を、僕がこれから晴らしてあげなきゃ。

僕は、点滴の入った左手で起き上がる。
って、めちゃくちゃ、痛い!
右首筋から、右肩、そして右腕、右手首がズキズキと悲鳴をあげている。
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