お帰り、僕のフェアリー
痛みに悶絶してると、彩乃が部屋に入ってきた。
「目ぇさめたんか。気分はどや?」

「……痛い。でも、悪くないよ。」

彩乃は、優しい笑顔になった。
「待っとり。看護師さん呼ぶし。痛み止め入れてもらい。」
「頼む。」

彩乃は部屋を出て行こうとして、振り返った。
「もう、あんまり無茶するなよ。」

「……ああ……と、言いたいところだが……」
僕は、静稀の寝顔を見つめて、続けた。
「静稀次第だな。静稀が望むなら死んでもいい。」

彩乃は、肩をすくめて出ていった。

悪いな。
ありがとう。

彩乃が去った後、すぐに義人が入ってきた。

義人は、寝てる静稀に気づき、声をひそめて僕に話しかける。
「セルジュにしては、がんばったな。」
「僕も、そう思うよ。2人にけしかられたからね。」
「でも、お前……どうしたらそんな大怪我できるんや?二階から芝生に飛び降りたぐらいで、普通そんな怪我せんぞ。」
茶化すというより、ほんとに疑問に感じてるらしい。

僕は、運動神経が鈍いと言われてる気分で恥ずかしくなる。
「慌ててたから、バランスを崩したんだろ。そんなに怪我ひどいんだ?骨折?」
「鎖骨をポッキリ折ったらしいわ。綺麗に折れたから、むしろ早よ治るらしいけどな。それと、右腕にひびが入ってるって。」

折ったのは腕じゃなくて、鎖骨なのか。
わからないもんだな。

「利き腕やし当分不便やろけどな、まあ、がんばれ。」
「ありがとう。夜中に来てくれたのか?」
「そうや。大変やってんで。静稀ちゃんが2時に彩乃に電話してきて、お前が救急車は嫌やってゆ〜てる、って。しょうがないし、2人で来て、お前を毛布ごとかついで病院に連れてきたんや。」
「ごめん。迷惑かけて。」

真夜中に京都からわざわざ駆けつけてくれたと思うと、本当に申し訳ない。

「まあ、俺らにも責任の一端はあるしな。でも、よかったな……静稀ちゃん……捕まえたな。」

すやすや眠る静稀の目尻に涙が固まっている。
拭い取ってあげたいけど、届かない。
確かに、当分不自由かも。

看護士さんがやってきて、点滴に痛み止めを足してくれると、すぐに楽になる。
頭を打ったわけではないので、明日には退院してもいいらしい。

僕が落ち着くのを確認して、彩乃と義人は帰っていった。
せっかくの連休、それもクリスマス前に悪かったな。
ありがとう。 

しばらくして、静稀が目覚める。
「おはよう。」

左手で手招きして、静稀に僕のそばまで来てもらう。
はにかんでやってきた静稀の目尻をそっと拭き取り、頬に口づけた。
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