お帰り、僕のフェアリー
「夕べは心配かけたね。ごめんね。もう大丈夫だよ。」
静稀の髪を撫でつつ、頬や額に唇を這わす。
「静稀がそばにいてくれたら、すぐ治るよ。」
何の気なしにそう言ってから、僕は気づいた。
確か、1月2日から東京公演じゃないか?
「あ、嘘。撤回。静稀、いつから東京?お稽古ももう始まるね?」
慌ててそう言ったが、静稀は頭を横にふって、こう言った。
「東京には、行きません。セルジュのそばにいます。」
ダメだって!
「何言ってるの!せっかくいい役もらってるのに、ダメだよ。」
「でも、私、もう本当に、辛いんです。いつもセルジュがいない喪失感が消えなくて不安で、一生懸命やってるつもりなんですけど、以前のようにお稽古に夢中になれなくて。全然出来てないまま舞台に上がっても……意味ない……。」
悲しい瞳でそう言う静稀。
「まだ東京公演開幕まで一週間以上あるよ。今からでもお稽古できるじゃないか。それに僕はもうこうして静稀のそばにいるよ。」
静稀の手を強く握りしめて、僕は言い含める。
「それとも、僕は、邪魔?君の足を引っ張る存在だろうか?」
静稀は、僕の肩にそっともたれかかる。
「もうね、セルジュと離れたくないんです。もういいの。ただ、セルジュのそばにいたいの。ダメ?」
ダメなわけ、ない。
僕だって、同じ気持ちだ。
二度と放したくない。
僕は、大きくため息をついた。
仕方ない。
「わかった。じゃ、僕が東京に行く。だから静稀もちゃんとお稽古して、ちゃんと納得のいく舞台を務めるんだ。」
幸い、卒論は提出したし、単位も足りている。
1ヶ月半、家を空けても何の問題もなかろう。
僕の決意に、静稀は驚く。
「いいの?でも、そんな……」
いいよ。
君の望みなら、僕は、本当に何でもしてあげたいんだ。
「前に言ったことあったっけ?祖母は静稀と同じ音楽学校に在籍してたんだ。」
静稀は、目を見開いて、首をふった。
「聞いてない。バレエをされてたとはうかがったけど。そうだったの……」
「祖母は予科を終えた段階で、退学したんだ。許婚(いいなずけ)だった祖父の海外赴任についていくために。」
祖母に後悔はなかっただろう。
でもそれでも、僕を連れて歌劇を見に行っていた祖母の目にはいつも、懐かしさと共に少しの淋しさが宿っていた。
だから、僕は、静稀には中途半端にやめてほしくない。
納得のいくまで、がんばってほしいんだ。
何年でも、僕は待つから。
静稀の一番近くで、ずっと応援するから。
「でもセルジュ、4月になったら、フランスに行くんでしょ?遠距離恋愛なんか無理だもん。私も一緒に、連れていってほしい。」
静稀、聞いてたのか……。
なるほど、歌劇団が嫌で逃げるんじゃないんだな。
僕と離れたくないだけなのか。
静稀……かわいい……。
愛しくて、愛しくて、たまらない。
こんなにも、いとおしい存在を、もう一度得られるなんて。
僕は、神に感謝したくなった。
幸せだ。
静稀の髪を撫でつつ、頬や額に唇を這わす。
「静稀がそばにいてくれたら、すぐ治るよ。」
何の気なしにそう言ってから、僕は気づいた。
確か、1月2日から東京公演じゃないか?
「あ、嘘。撤回。静稀、いつから東京?お稽古ももう始まるね?」
慌ててそう言ったが、静稀は頭を横にふって、こう言った。
「東京には、行きません。セルジュのそばにいます。」
ダメだって!
「何言ってるの!せっかくいい役もらってるのに、ダメだよ。」
「でも、私、もう本当に、辛いんです。いつもセルジュがいない喪失感が消えなくて不安で、一生懸命やってるつもりなんですけど、以前のようにお稽古に夢中になれなくて。全然出来てないまま舞台に上がっても……意味ない……。」
悲しい瞳でそう言う静稀。
「まだ東京公演開幕まで一週間以上あるよ。今からでもお稽古できるじゃないか。それに僕はもうこうして静稀のそばにいるよ。」
静稀の手を強く握りしめて、僕は言い含める。
「それとも、僕は、邪魔?君の足を引っ張る存在だろうか?」
静稀は、僕の肩にそっともたれかかる。
「もうね、セルジュと離れたくないんです。もういいの。ただ、セルジュのそばにいたいの。ダメ?」
ダメなわけ、ない。
僕だって、同じ気持ちだ。
二度と放したくない。
僕は、大きくため息をついた。
仕方ない。
「わかった。じゃ、僕が東京に行く。だから静稀もちゃんとお稽古して、ちゃんと納得のいく舞台を務めるんだ。」
幸い、卒論は提出したし、単位も足りている。
1ヶ月半、家を空けても何の問題もなかろう。
僕の決意に、静稀は驚く。
「いいの?でも、そんな……」
いいよ。
君の望みなら、僕は、本当に何でもしてあげたいんだ。
「前に言ったことあったっけ?祖母は静稀と同じ音楽学校に在籍してたんだ。」
静稀は、目を見開いて、首をふった。
「聞いてない。バレエをされてたとはうかがったけど。そうだったの……」
「祖母は予科を終えた段階で、退学したんだ。許婚(いいなずけ)だった祖父の海外赴任についていくために。」
祖母に後悔はなかっただろう。
でもそれでも、僕を連れて歌劇を見に行っていた祖母の目にはいつも、懐かしさと共に少しの淋しさが宿っていた。
だから、僕は、静稀には中途半端にやめてほしくない。
納得のいくまで、がんばってほしいんだ。
何年でも、僕は待つから。
静稀の一番近くで、ずっと応援するから。
「でもセルジュ、4月になったら、フランスに行くんでしょ?遠距離恋愛なんか無理だもん。私も一緒に、連れていってほしい。」
静稀、聞いてたのか……。
なるほど、歌劇団が嫌で逃げるんじゃないんだな。
僕と離れたくないだけなのか。
静稀……かわいい……。
愛しくて、愛しくて、たまらない。
こんなにも、いとおしい存在を、もう一度得られるなんて。
僕は、神に感謝したくなった。
幸せだ。