お帰り、僕のフェアリー
フェアリー飛翔
瞬く間に、四年が過ぎた。

静稀は、もうすぐ研8の24才。
過酷な役替り公演を、ひたすら努力と根性で何とかこなし続けて、劇団の期待に応えている。
新人公演を卒業し、時間に余裕ができるかと思いきや、取材や撮影といった舞台以外の仕事が増えた。
まとまった休みが取れたら、僕とフランスを旅行したい、といつもぼやいている。

彩乃は、大学卒業後、すぐに明子(あきらけいこ)と結婚した。
翌年息子が、二年後に娘が生まれたので、日舞家元の祖母がさっそく跡取り教育を始めている。
彩乃自身は、養父の家業を継ぐべく日々がんばっている。
……色々ややこしい家だが、まあ、おさまるべくしておさまりそうだ。

義人は、大学院生を続けながら、父親の会社にも入社した。
学ぶべきことがたくさんあるらしく忙しいだろうに、相変わらず、遊びにも精力的だ。
若紫の希和子ちゃんも、もうすぐ高校に入学する。
義人がまだ手を出してないのが不思議なぐらい、眉目秀麗に育っている。

由未は、東京で大学在学中に結婚した。
子供はまだいないが、幸せそうだ。
……石井さんとウマが合うらしく、榊高遠くんのファンクラブの東の代表代理を務めてくれている。

父は、あいかわらず、外国と霞ヶ関を数年ごとに行き来している。
この4月からは霞ヶ関勤務なので、静稀の東京公演の際に会えるようになりそうだ。


みんなが成長していくなか、僕だけが変わらない。
僕はあいかわらず、静稀の公演について回り、中途半端にデザインを書き散らしていた。

その夜も、僕は静稀の公演で名古屋に滞在していた。
あと数日で千秋楽。
外での食事を終えて、ホテルへの帰路でその電話を受けた。
フランスの伯父からだった。

いつものようにデザインの話かと思って気軽に出たのだが、伯父は妙に緊張していた。
まず、伯父が第一線から引退して、娘、つまり僕の従妹のCatherine(カトリーヌ)に会社を譲渡することを決めたらしい。
そして、彼女の結婚が決まったことを知らされた。

Toutes mes felicitations!
心から、おめでとう!

……僕とカトリーヌは共に育ち、愛し合い、結婚する予定だった。
僕は彼女が大好きだった。
しかし僕の純粋すぎる想いが、彼女には窮屈だったのだという。
カトリーヌは次第に僕に反発し、僕に対する当てつけのように、悪い仲間と付き合いだした。
彼女はドラッグを常用し、廃人寸前まで病んでしまった。
見かねた伯父と僕が更正させようと尽力したことが裏目に出て、カトリーヌは自殺を謀った。
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