お帰り、僕のフェアリー
4月半ばに初日を迎えた。
例によって、家族との夕食会のあと、静稀が我が家にやってくる。
折しも我が家の枝垂れ桜は満開。
僕らは、夜桜を愛でつつ睦み合う。
美しい春の宵を楽しんでいたら、遠くで家の電話が鳴っているのに気づいた。

「出なくていいの?」
「無粋だ。携帯にかかってきたら出るよ。」
静稀を離したくなくて、つい等閑(なおざり)にしてしまう。
が、今度は僕の携帯に本当にかかってきたので、仕方なく出る。

父だ。
「もしもし、珍しいね、どうしたの?」
静稀を膝に座らせたまま会話する。

『うん、ちょっと、困ったことになってな。…彼女は、今、側にいるのか?』

静稀?
「うん。」

『そうか。じゃ、明日また電話するよ。あ!セルジュくん、大使館のパーティー、欠席の返事出したろ。何とか出られないか?大使夫人から直々にお願いされたぞ。』
「今月は動けないよ。6月になったらそっち行くから、その時に参加するって言っといて。」
『私からそんなこと言えるか。挨拶だけして帰ればいいから、とにかく顔出しなさい。』
「しょうがないな。ほんとに挨拶だけだよ。」
『…だいたい、君の会社の絡みなんだから、ちゃんと営業しないと会長に怒られるよ。』

確かにそうだな。
「静稀も一緒でもいい?」

父は少し考えて慎重に返事した。
『大使館のパーティーには、マスコミも来るよ。問題が生じない保証はないが。』

マスコミは、ダメだな。
「わかった。独りで日帰りするから。」

電話を切ってから、好奇心いっぱいの静稀に話す。
「週末にフランス大使館のパーティーがあるんだけどね、断ったのに、行かなきゃいけないらしい。静稀もつれていこうかと思ったら、マスコミもいるんだって。色々めんどくさいね。」

「日帰りするの?」

「うん。これでも僕、忙しいんだよ、毎日観劇で。」
そう言って静稀にウインクしておどける。

静稀は、僕にきゅっとしがみついた。
「ありがとう。セルジュ、大好きよ。パーティーで、他の女性に目移りしないでね。」

どさくさ紛れに釘を刺されたな。
大丈夫。
僕には、静稀しか、見えない。
心を揺さぶられるのは、静稀だけだから。

翌日、再び父から電話を受ける。
静稀がいては話しづらい話と聞いてうすうす予想はしてたが、案の定、お見合いの話だった。

僕が高等遊民だった時には一切そんな話もなかったのに、肩書きができたとたん、こうだ。
うんざりする。

父も、仕事の付き合い上、無視するわけにもいかないらしく、パーティーで一応の紹介をされる、らしい。
ま、その程度ならいいよ、と、軽く返事したのが運の尽きだった。
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