お帰り、僕のフェアリー
週末、僕は、午前の部を見終えてから、新幹線で移動した。
フランス総領事館のパーティなら京都だし楽なのにな。

19時スタートなので、18時半に南麻布の大使館へ。
てっきり気軽な立食パーティーだと思ってたら、今回は正式な着席パーティー!
挨拶だけで帰れないじゃないか。

しかも、僕の指定されたテーブルは、僕以外の7人全てが妙齢の日本人女性だった。
息子相手に無駄にやり手な父を恨みつつ、僕は失礼のないよう、笑顔を張り付かせてやり過ごす。

アペリティフで悪酔いしそうだ。

大使夫妻が登場し、パーティーが始まる。
夫人のドレスは、なるほど、僕のデザインだ。
もっとも、素材も色も夫人用に変えられているので、静稀とお揃いの印象は受けない。
しかしこんな風に僕のデザインが伯父とArain(アラン)によって、エレガンスに化けるのを見るのは、本当に勉強になった。

夫人は僕を見つけると、まっすぐやってきた。
当然だが、フランス語でご挨拶を交わす。

……同じテーブルの女性陣が、ため息をつき、熱い視線を寄越すのがよくわかった。
勘弁してくれ。

大使夫人の去るのを待って、勇気ある女性が僕に尋ねる。
「フランス語、お上手なんですね。」

……。

では、あなたがたは、ここに何しに来てるんだ?
フランス大使館のパーティーだぞ。
フランス人と交流する気が少しでもあるなら、日常会話ぐらい勉強するだろ。
……静稀なら、ちゃんと勉強してくるぞ……たぶん……。

僕は、苛立ちを抑えて、適当に受け流す。
早くこの拷問のような時間が過ぎ去ってほしい。
それだけだ。

食事が進み、ワインの杯を重ねると、緊張してたお嬢さんがたの地が見えてくる。
僕は、彼女らの個性を観察し始めた。
仕事柄、それぞれのキャラクターと着ているドレスや着物の相対価値の品定めとなるが、なかなか有意義だった。

音楽やダンスパフォーマンスが一通り済むと、緩やかな調べとともに、大使夫妻が踊り出す。
一組、また一組と、楽しそうにダンスの輪が広がる。
チャンス到来!

僕は、席を立ち、お嬢さんがたに優美なご挨拶をすると、大使夫人に近づいた。
僕に気づいた夫人が、手を差し伸べる。
ワルツのお相手をしつつ、夫人に帰る挨拶を済ませた。

曲が終わると、僕は、御手洗いにでも行くかのように廊下に出て、そのまま帰ってしまった。
義理は果たした!
何とか最終の新幹線で、僕は帰宅できた。

家に帰り着くと、静稀が居間のソファでうたた寝してた。
「ただいま。風邪ひくよ。」
と、起こさないように小さな声でつぶやき、静稀を抱き上げる。

美しい頬に口づけして、僕のベッドに連れて上がり、共寝する。
それだけで、僕の心は満たされる。
本当に、欲しいのは、君だけ。
君以外、いらない。
愛してるよ。
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