お帰り、僕のフェアリー
翌朝、静稀を送り出した後、父からの電話を受けた。
『大使夫人が、喜んでらしたぞ。今後も招待状が行くだろうが、なるべく出席してくれ。』
「……夫人はいいけど、フランスに何の関係もない日本のお嬢さんがたは、勘弁してくれる?疲れるだけだから。」

父は電話のむこうで笑った。
『あれでも、私が今お聞きしてるのの半分にも満たないよ。セルジュくんが勝手に副社長になんかなるからいけないんだよ。』
「そんなにもてるんだ、この肩書き。」
『もちろんそれだけじゃないさ。でも、普通にセルジュが外交官になってるよりは、今後も賑やかだと思うよ。とりあえず、マスコミ関係者や芸能人は私の方でお断りできるけど、昨日のようなお嬢さんがたは無碍にできないから、そのつもりで。頼んだよ。』

……頼まれてもなあ。
僕は、苦々しく電話を切った。

しかし、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
パーテイーで大使夫人とワルツを踊った様子が、テレビやホームページ、雑誌に掲載されたらしい。
特に僕の周囲で見つけた人はいなかったようだが、父の元にはさらなる見合い話が舞い込んできたようだ。

こんなはずではなかったのに。
僕の試練はまだまだ続きそうだ。


いよいよ、静稀が本公演で二番手を務めるB日程が始まった。
僕は、ダブルで観劇したが、ここまで静稀がやるとは思わなかった。
先にA日程で、渚さんの独りよがりな演技と歌を見ていた分、榊高遠くんはなおさらすごい!と思った。
美しく爽やかな好青年を演じさせたら、右にでるものはいないかもしれない。
そう思ってしまうほど、静稀はよくやっていた。
また一歩、静稀は階段を上がったんだな。

5月半ばに、静稀は千秋楽を迎えた。
今回は10日ほどの休みがある。

珍しく、静稀は帰省した。
おじいさまが会いたがってるのだそうだ。

いい機会だから僕も一緒に行ってご挨拶したいと言ったが、また断られてしまった。

少し拗ねた僕は、一旦は断っていた、大使夫人の昼食会に参加すべく、東京へと向かった。
案の定、ここでも僕は、やんごとなきお嬢さんがたを紹介される。
めんどくさい。

これが義人なら、嬉々として交遊を深めるんだろうな。
しかし、僕には煩わしいばかりだった。

うれしいこともあった。
大使夫人から、直々にドレスのご相談を受けた。
色々お話しして、柔らかいシャンパンゴールドをお勧めした。
上品で優美なものになるだろう。
確かな手応えを得て、僕は静稀に袖にされた不満も忘れられた。
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