お帰り、僕のフェアリー
僕とは正反対に、静稀は泣きべそで帰ってきた。
おじいさまに、お見合いの命令を受けたそうだ。
まったく、どいつもこいつも…。

僕は今年27歳になり、静稀は25歳になる。
今時、まだまだ結婚を焦る歳ではない。
しかし、少し昔の人種にしてみれば、もはや遅すぎる、らしい。
お互いに相手がいるのだから、ほうっておいてくれればいいものを。

「お見合いしたら、必ず結婚しなきゃいけないわけじゃないんだろ?おじいさまの気が済むなら、会うだけ会ってみれば?」
僕は、ため息まじりにそう言うしかなかった。

「……いや〜。押し切られたらどうするの?無理〜。いや〜。」
「静稀がはっきり断れば済む話だろ?」

「だって…だって…」
静稀はうるうるとまた新たな涙を目に浮かべる。
「セルジュがいるのに…セルジュにも、お見合い相手にも、お仲人さんにも、悪いもん…」

「僕は、気にしなくていいよ。誰にも静稀を、奪われるつもりはないから。」

静稀の涙がぴたりと止まった。

……なんだ、僕にとめてほしいのか?

僕は、苦笑まじりに、それでも静稀の欲しそうな言葉を続けた。
「どんなに条件のいい相手でも、ダメだよ。静稀を幸せにできるのは、僕だけなんだから。静稀は、何も心配しないで、おじいさまの顔を立ててあげなさい。」

静稀は、おとなしくうなずいた。

「いい子だね。」
そう言って静稀の頭を撫でる。

静稀は、目を細めて気持ちよさそうに撫でられていた。
ひとしきり泣いて、愚痴って、慰められて、納得したのだろう。
「そうよね!どうせ、資産家か、偏差値の高い野心家ってだけだもん!こっちに弱みがあって売られるわけじゃなし、対等なんだから、断れるのよね!」

拳を握って、力強く自分を鼓舞する静稀。
資産家か、偏差値の高い野心家……。
僕自身は、どちらも中途半端だな、と自嘲する。

「資産家か野心家、じゃなくて、例えば義人みたいに両方兼ね備えた奴かもよ?」
そうからかってみると、

「お見合い相手が義人さんなら、話は簡単なのにね。女性関係を理由にお断りできるから。」
静稀はそう言って、ため息をついた。

「どんな相手でも、お断りしてきなさい。僕も相手がどうあれ断固拒絶してるんだから。」
何気に言ってしまった僕の不用意な言葉に、静稀が気付く。

「……セルジュ、こっそりお見合いしてたんだ……」
静稀がじと~っと恨めしい目で僕を見る。

しまった。

「いや、してないよ。本格的なお見合いはすべてお断りしてる。ただ、強引にパーティーの時に紹介される程度。」

僕は取り繕うが、静稀の表情がますます険しくなる。

「聞いてないし。ふううううん。パーティーって、大使館の?仕事じゃなかったんだ。ふうううん。」

ますます、僕は墓穴を掘ったようだ。
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