お帰り、僕のフェアリー
これじゃ、今後もパーティーの度に静稀の機嫌が悪くなるんじゃないか?
冗談じゃない。
僕だって、パーティーなんぞに行きたくないし、そもそも静稀を同伴できるならこんな苦労はなくなるんだ。

……なんて言ったら、静稀は歌劇団を辞める、って言いだしそうだな。
やっと3番手、しかも2番手を争える位置まで登ってきたのに。
僕は、苛立ちを飲み込み、言葉を選ぶ。

「僕も知らなかったんだよ。立食だと思ったら着席で、独身女性ばかりのテーブルにつかされてた。ただ、それだけだ。」
「……本当に、それだけ?」
「そうだよ。名前も聞いちゃいないよ。」
「本当に?」
「ああ。」
「……でも立食パーティーなら、当然、名前も紹介されるでしょ?」

しつこい静稀に、僕はさじを投げる。
「いちいち覚えてないよ。『舞踏会の手帖』じゃあるまいし。」

先日静稀と見た映画の中で、ヒロインが舞踏会で踊る順番待ちのために男性が記した手帖、というのが出てきたのだ。
しかし、これも逆効果だった。

「そんなにたくさんの女性と踊ったの?ひどい~。私とは一度も踊ってくれないのに。」

……いや、それは語弊が生じるだろう。
そもそも静稀は男役なんだから、練習に付き合うと、僕は娘役のステップを踏まないといけないわけで。

「踊ってないよ。大使夫人だけだよ。」
「信じられない……」

……それは、ないわ。
僕は、悲しくなってしまった。
信じてくれよ。
本当に、僕には静稀だけ、なんだから。
拗ねる静稀に、僕は途方に暮れてしまう。

しばらくすると、静稀はしくしくと泣きだした。
僕は天を仰いでから、もう一度静稀に向き合う。

「泣かないで。しっかりと僕を見てほしい。僕が、静稀以外の女性を欲しがってるように見えるかい?」
静稀を抱き寄せて、僕の膝の上に座り直させる。

僕にじっと見つめられて、静稀はぷるぷると首を横にふった。

「じゃ、ごめんなさい、って言って。僕を、信じられない、なんて言って、僕を傷つけて。ごめんなさい、は?」

静稀は、首をかしげる。
「セルジュ、傷ついた?」

僕は自分の胸を押さえて、目を閉じる。
「ものすごく傷ついた。胸が痛くなった。」

「ご、ごめんなさい……。信じてないわけじゃないんです……」
静稀がしゅんとしてそう言う。

僕は、静稀の頭を撫でる。
「よしよし。ありがとう。僕も、ごめんね。最初に言えばよかったね。」

ゆっくりうなずく静稀。

「じゃ、これからの2人の話を、ちゃんとしようか。」
僕は、静稀を膝に乗せたまま真面目に話し出した。
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