幸せは、きっとすぐ傍
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隼人と自衛隊の音楽祭りに行った帰りに、こよみは彼氏のアパートに寄ろうと電車に揺られていた。
何故自衛隊の音楽祭りに行ったかというと、何でも隼人の友達に陸上自衛官がいるらしい。そこから話を聞いてこよみを誘ったようだった。正確には和泉と彼方も誘ったのだが捕まらなかったのだ。
別にこよみと隼人がそういう仲にある訳ではない、こよみにも隼人にもそれぞれ恋人がいる。こよみは隼人のことを仲のいい友達だと思っているし、多分隼人もそう思っている。
わざわざ認識の擦り合わせをしたことはないから分からないが、彼女とこよみとの接し方の違いからして明らかにこよみを恋愛対象としては見ていないだろう。否特別には変わらないかもしれないが、それはあくまで友達としてでの話だ。
自衛隊に興味があった訳ではなかった。今日行くことにしたのはただ単に暇だったからである。
けれど思ったよりも凄かったし、自衛隊という組織について少なからず好感が持てた。そもそも自衛隊自体をよく知らなかったのでそれ以前の問題だが。
彼には今日のことを話してあるし、行くことも連絡してある。一応隼人とも面識のある彼はちゃんと理解してくれているらしい。こよみも彼も隼人ももう子供ではないし、彼には隼人が彼女を溺愛していることも言ってあるから余計だ。
はあ、と溜め息を吐いて椅子に体を沈めた。まだ呑まれている。会場にいるときよりはましになったが、思い出す度に全身に鳥肌が立つ。
こよみとて小学校中学校と吹奏楽部に所属してフルートを吹いていた。だがそれも今思えばお遊びに過ぎなかったし、観客に鳥肌立たせるほどの演奏が出来ていたとは到底思えない。
加えて普段の業務もあるだろうによく聴き手を惹きつけるまでの演奏が出来るものである。好感を持つというよりその点に関しては尊敬さえするかもしれない。否する。
機会があったらまた聴いてみたいと思った。案外ポップスも演奏していたし、知らない曲でも楽しめる。楽しめるというより惹きこまれる、か。