幸せは、きっとすぐ傍
「さっきの!」
「ありがとうね、助かったわ。彼氏さんかしら、良かったらこれ、二人でどうぞ」
「え、あのっ」
何かの入ったビニール袋を押し付けられ、反射的にそれを受け取る。同時にドアが開いた。中を確認する前に、彼女は電車を降りて人々の影に紛れてしまう。どうしよう、思いながら彼女の消えた方を見ていると、太陽に声を掛けられた。
「何かしたのか?」
「うん、席譲ったんだけど……」
電車が動き出す。空いてきた車内の空席に二人並んで座ると、ひょいとビニール袋の中を覗き込んでみた。
「……これって」
「紅白饅頭、だな」
入っていたのは紅白饅頭だった。どうしてこんなの、と思いながら太陽に目を向ける。太陽は何か思案顔。どうしたのか訊こうとしたが何故か訊けずに、こよみは開いていた口を閉じた。
それから太陽のアパート近くの駅に着き、二人で電車を降りる。尚も喋らない太陽に不安になる。改札を出てそのまま歩いていると────「こよみ」太陽に呼び止められて、こよみは足を止めた。
「あの、さ……こよみ、」
そこまで言って、太陽はまた口を閉じる。どうしたの、と訊くと、太陽は意を決したように言葉を落とした。
「────結婚、しよう」
それは、唐突な言葉。けれど────ずっと、待っていた言葉。
「……っ、はいっ……!」
泣きながら笑った。泣きながら笑って、頷いた。
貰った紅白饅頭。それはきっと、あの人からの幸せのおすそ分けだったのかもしれない。